2024年10月18日金曜日

最後の胡弓弾き 新美南吉

時の流れとは残酷なものだと読者に語っている。

胡弓弾きの木之助は少年の頃から老人になるまで正月には門附けに行き、一銭貰っていた。年を取ると相棒の松次郎は鼓を打つのを止めた。時代が変わり、村人は正月になっても胡弓の門附けを聞かなくなった。

木之助は、それでも聞いてくれる人を廻るのだが、追い払われる始末。親の不幸とか自分の感冒で二年間行けなくなった。翌年、いつも親切に聞いてくれた味噌溜屋の主人だけは、必ず待っていてくれると思った。それで、病気にも拘らず、味噌溜屋を訪れる。が、「味噌溜」看板が変わり、「味噌醤油製造販売」となっていた。聞けば主人が亡くなり、息子が跡取りとなっていた。落胆していると、昔、味噌溜屋で働いていた女中に会い、仏壇の前で胡弓を弾く。

この場面は泣かされる。時代の移り変わりを木之助は胡弓を弾くたびに感じただろう。帰りに「もう胡弓時代は終わった」と胡弓を古物屋に安く売ってしまう。売ってから「しまった。長年の連れ合いを手放すとは」と後悔し、古物屋に買い戻しに行く。ところが、売った値段の二倍に値上がりし、60銭になっていた。金がなくて買い戻されず、木之助は帰路に着く。

「そして力なく古物屋を出た。午後の三時頃だった。また空は曇り、町は冷えて来た。足の先の凍えが急に身に沁みた。木之助は右も左も見ず、深くかがみこんで歩いていった」

新美南吉の文章は柔らかく、分かりやすく、情景や心情がひしひしと伝わって来る。哀れな木之助に同情した。何も難しい言葉を並べる必要はない。


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