2015年10月11日日曜日

瓶詰の地獄 夢野久作

 三通の手紙によって、状況を読者に知らせる手法はよくできている。出だしの難解な公文書が重みを持って信憑性があるようなしかけにしてある。  手紙を照らし合わせると、親近相姦で兄と妹が命を捨てることが分かり、面白いのだが、この話の、真骨頂は話の内容でなく、そのトリック(からくり)の巧みさである。兄の切実な思いは押し付けがましく読者に迫るが、読者は兄に感情移入できない。それは、手紙が、親近相姦した結果だけを書いているから、兄のその時の心理を読者は間接的にしか想像できない。奇を衒った短編で、残心は残らない。

押絵と旅する男 江戸川乱歩

素晴らしい短編
1. 蜃気楼とか双眼鏡とか夢とか幻とか狂気とかで、読者をその不思議な世界に導入する。
2. 次々に奇妙な事が起こるが、奇妙なことはこの事ではないと言って、さらに読者を引っ張っていいく 3. 奇想天外な話がリアリティを持っている。いわゆるmagical realityの手法が駆使されていて、realityがある 4. 単に双眼鏡を逆さにして兄が小さくなり、押絵に入りお七と睦まじくなるということに留まらず、兄は年を取っていきお七は年を取らないという仕掛けになっている。
5. 旅人の語り口調がごく自然で、なんの抵抗もなく、聞いていることができる。「私」に語っていることが、すなわち「読者」に語っている。
6. 最後に旅人が消える場面もいい