2020年12月18日金曜日

陰の季節 横山秀夫

警察物を初めて読んだ。松本清張賞受賞作だけあり、読者をどんどん事件に引き込んでいく。最後のクライマックスも納得のいく出来。ネタバレ(白髪の運転手が尾坂部のお抱え運転手と言うのは出来すぎではあるが)

尾坂部が何故現職を降りないのかの真相をめぐって、ニ渡があれこれ手を尽くすのだがどれも功を奏しない。

最後に尾坂部の娘のレイプ事件に行き着き、犯人を追い詰めるという仕掛けはうまくできている。

尾坂部の人間味も巧く出ている。

一気に読み終えた。

2020年12月17日木曜日

花の歳月 宮城谷昌光

姉の猗房(いぼう)が皇后となり、幼い時に生き別れた弟の公国が30年後に再会する物語。著者は史記の「外戚世家」から題材を得たと言っている。

最初の章の最後の章は小説文体で詳細に描かれていて目に見えるようである。文体も読みやすい。特に姉と弟が再開する場面はほろりとする。

その他の章は歴史的事実が羅列してあり、歴史上の人物や国がいっぱいでできて、歴史書を呼んでいるようであった。

猗房と公国が歴史の波に翻弄され、占い通りに姉は皇后になり、弟も姉と再会しいち武侯となる。

司馬遷の原文「侍御左右、皆、地に伏して泣き、皇后の悲哀を助く」とある。原文と宮城谷版を比較してみたい。

2020年12月16日水曜日

アマダースの饗宴  牧村一人

松本清張賞受賞作ということで読んだが、読む価値がない。

何故、受賞したのかわからない。大沢在昌氏が絶賛しているが、こんな安っぽい駄作を褒めるとは、大沢氏も大したことない。ハラハラドキドキ、謎解きや、エンタメ要素が皆無。人間を描いていない。だらだらと同じような場面が繰り返される。長編を書く参考にと思ったが、反面教師として役立ったか。最低の駄作。

評価としては5段階の1.時間の無駄。何度も読むのを止めようと思ったが、後半の盛り上がりとかクライマックスが何もない。お勧めできない。

今後は受賞というまじないに引っかからないようにして、4分の一読んで面白くなかったら、本を閉じるべし。

ヤクザおお対ヤクザの争い物。株の取り引きの専門的な用語がいっぱい出てきて、途中で分からなくなる。話の筋を追っていくだけで精いっぱい。いや、実際、話の筋がよくわからない。登場人物が30人ぐらいあり、紙に書き付けたが、いくつかのヤクザの組織が互いに争い、組長、若頭、子分などが、複雑にかあみあい、話が複雑で分かりにくい。加治と言う男が大物で、最後に加治が登場してくるかと思ったら、死んでしまっていた。読者は落胆するだろう。

無理に読み終えたが、筋がつかめず面白くなかった。人間関係が分からない。最後は10億円をダイヤ二個に変えて男の一物のなかに入れ込んで死ぬ話だが、なぜこうも複雑に話を展開しているのかわからない。主人公の女性笙子もわかりにくい女、結局は女の嫉妬が巻き起こした捕り物か。

ドンパチや、派手な出入りがあるハードボイルドだが面白くない。


2020年12月3日木曜日

一応の推定 広川純

 轢死した老人は事故死か、それとも重病の孫娘を助けるために自殺したのか。自殺ならば保険会社は保険金として3000万円を払わなくても良い。

「ネタバレ」定年間近の保険調査員、村越努の地道な調査により、「一応の推定」で自殺と判定されかかるが、最後の数ページでそれを覆す人形の入った箱の損傷から、老人が脳に損傷を受けていたことを突き止める。

広川純の文章がいい。必ず登場人物の人となりを2行ぐらいで説明する。場所(応接室、居酒屋、喫茶店、ラーメン屋、雑居ビル)の描写が念入りで、リアリティがある。竹内主査との会話で、読者は事件の中身を整理できる。

後半4分の一ぐらいから、結末がどうなるか気になって(太った男に会い、真相がわかる結末と思っていたら、死んでいたというところで、大いに驚かされた、このトリックは絶妙。では、どうなるかと思っていると、自転車にぶつかって子頭部を打っていたという結末に持っていく手腕は見事。

松本清張賞作品の中で特にいい作品。

2020年11月27日金曜日

月の浦惣庄公事置書 岩井三四二

著者が言うように、この小説は「菅浦文書」中の「菅浦惣庄合戦注記」を下敷きにした物語であるが、歴史的資料を基にこのように創作力を駆使して読者をぐいぐい引っ張っていく手腕は大したものだ。

登場人物の源太は、成人して源左衛門という極悪代官となり、それを打ち取る若衆の指揮を執る右近は、実は源左衛門の父であるという設定はうまくできている。特に最後のところで、月の浦と高浦の若衆が源左衛門を打ち取るくだりは、ドキドキハラハラで、源左衛門は不死身に見えたがついには矢を射ぬかれる。剣劇の描写が具体的で、単に「白兵戦になった」でなく、どう刀が、どう弓矢が、どうチャンバラがなされたが詳しく描かれていて剣劇を見ているような語り口だ。

公事(裁判)に至るまでの過程、裁定が出るまでの過程、比叡山和尚や管領を巻き込んで公事の背景をよく調べてある。

章が変わるごとに情景描写を入れて読者を休憩させ、屋敷の造り、登場人物の着物(大紋と小袖とか袴)、当時の家屋や屋敷の構造(冠門とか板葺きの白壁とか)をよく調べて描いている。

松本清張賞を受賞するわけだ。

2020年11月25日水曜日

The Hitch-Hikers by Eudora Welty

This is a difficult story because there are a lot of sentences which have deep psychological meaning.

The protagonist, Harris, picks up two hitch-hikers. While he is away from his car, one of them, a guitar player, is killed by the other named Sobby. Sobby says, “It’s his [guitarist] notion to run off with the car.”

Both men are lonely; the guitarist is talkative and the other is silent, who confesses, “He was uppity, though. He bragged. He carried a guitar around.”

That seems to be the reason he kills him.

Harris identifies himself with them; he was also alienated with the town’s people. He does not belong to their community. He has no particular destination to go to.

This is not a moving story, but a kind of sad one. It depicts loneliness of a man.


2020年11月12日木曜日

風神と雷神 原田マハ

 奇想天外な話を上下二巻の物語にした。発想の奇抜さに脱帽。

しかし、内容がお粗末で、全編、著者の頭の中で想像したことをそのまま書き付けたような文章と展開で、嘘話の羅列で、リアリティーがない。

ローマ法王との謁見もあっけなく終わる。著者は読者を感動させようとしてか、登場人物が涙を流す場面を多用している。全然感動しないのに、白けてしまう。航海中も過去を振り返るエピソードが多く、何度も繰り返されるから飽きる。登場人物がよく病気になる。神父、派遣される少年、はたまた、主人公の俵屋宗達も病気になる。そうでもしなければ、話が続かないないのか。

渡航先での行事も空想の域を出ないで、教会とか晩餐会とか舞踏会とか貴族とかの謁見とか、ありきたりのことが書かれ、宗達が信者でないことのひがみとか、ラテン語やイタリア語の勉強とかが書かれ、その現地の色合いが出ていない。読者を引っ張っていく力がない。

宣伝帯に書いてある「俵屋宗達VSカラヴァッジョ」の対面も喧嘩から始まり、カラバッジョの生い立ちが作り話で語られ「最後の晩餐」の絵の前で会うとかがあり、ありきたりのエピソードで、特に、絵師X絵師の感動的出会いではない。読者を馬鹿にしている。

話の根幹に無理があるため、無理やりこじつけて書いたように思える。とにかく水増しして、水で薄めたような話だ。

上下二巻の長編で、時間をかけて読んだが、裏切られたようで、つまらなかった。


2020年11月8日日曜日

銀漢の賦 葉室麟

登場人物が30人以上で、話が展開していく。主人公は松浦将監(小弥太)と日下部源五。二人の少年時代から老いるまでの友情を克明に描いている。

テーマが分かりにくい。将監は元家老の九鬼夕斎を、父と母の仇として討ち取る話だと思ったが、仇討ちを果たした後も話が延々んと続く。

将監と源五の心の内が丁寧に描かれている。どちらかの視点に絞らず、二本立てで突き進む。こういう手法もあるのか。

剣劇の場面が豊富にあるが、神道流剣術を30年ほどやっている私としては、分りにくい描写があった。

もう一度読む気はしないが、もし読むなら人物相関図をきちんと書いて読まないと、誰が誰だかか分かりにくくなる。

情景描写の筆使いはいまいち。

エピソードが入り組み過ぎで話が分かりにくい。これぐらいややこしい話を書かなくては、松本清張賞は取れないのか?

2020年10月18日日曜日

一朝の夢 梶よう子

宗鑑(実は、井伊直弼)と言う風流人が登場し、朝顔の栽培に没頭する主人公・興三郎と朝顔談議で懇意になる。

里恵や村上やら鈴やなどを登場させ、水戸藩と彦根藩、安政の大獄の時代背景を巧みに取り込んで物語を展開する技は見上げたものだ。里恵や村上が死ぬ辺りから、話はどんどん進展していき、クライマックスに向かって突き進む。最後は直弼の暗殺、その後、興三郎の黄色の大輪の朝顔が咲く。これぞ松本清張賞受賞作品だ。

著者・梶よう子はどのようにしてここまで巧く書けるようになったのか。

情景描写、人物の動き、表情など描写も見事で学ぶところが多い。

2020年10月14日水曜日

The School of Salamanca

 

This is an Italian story.  It is a pure entertainment story. It develops quickly to the end with a lot of fun. The funniest scenes are when the son and his Master change into various things, such as wind, a pigeon, horse, an old man, a conger, an eel, a dove, a falcon, a ring, a cock, a doctor, and a fox. The phrases such as “Conger I am, and a ring will I become,” or “Doctor I am, and a cock will I become” are spells and are used effectively and swiftly enough for the reader to enjoy the changes.

In the end the son (the fox) eats the cock (Master). And the princess and the son marry. Happy end.

 

2020年10月8日木曜日

一枚摺屋 城野隆(じょうのたかし)

 文章がこなれており巧い。会話や情景描写がいい。また、幕末の目まぐるしい世情をうまく背景に取り入れている。魅力ある女を出しつつ、仇の情報を小出しにしていく手腕もいい。ただ、途中で、読むのに飽きてくることがある。同じパターンの繰り返し(記事を書く、ばらまく、追いかけられる、うまく逃げる、記事を書く……)がある。

この小説は彦馬が死んで「ええじゃないか」運動で終わりになるが、エンディングの盛り上がりに欠ける。感動もない。なぜか。それは、文太郎が仇の里村を捕らえるが放免するという場面がすでにあり、話の決着がついてしまっているからだ。読者は、冒頭で文太郎の父親がむごたらしい殺され方をして、その仇を討つという釣りに牽引されてきたが、その釣り糸がここで切れてしまう。残りの部分は単にお涙頂戴の付け足しに過ぎなくなる。


2020年10月3日土曜日

マルガリータ 村木嵐

 松本清張文学賞受賞作だけある。最後の50ページぐらいは、それまでの250ページの集大成としてすべての秘密が解き明かされるように仕掛けてある。珠が何もわからぬ女に描かれているのも意図があってのことだ。

始め150ページぐらいは何永んだか分らぬままただ筋を追って読んでいたが、後半になってうまくまとまっていく。

最後で分かる信長の策略、4人の天正遣欧少年の絆、バテレン禁止令と殉教と棄教などがかなりうまく書けている。

しかし、信長が毒を盛ったとか、千々石ミゲルがローマから、不具者ゆえに司教にさせないという話は作り話だと見え見え、加藤清正が知恵を授けるがその裏の心が描かれていない。伊奈姫がまるで欠点がないような観音様のようで、人間らしくない。天草四郎がミゲルと伊奈姫の子であるというのはでっち上げで、これも余分。

涙を流すという表現が多すぎる。

作り話だなあと言うあと味があり、リアリティがない。


2020年9月14日月曜日

眩(くらら) 朝井まかて

  あまり面白くない。なぜならば、父北斎を亡くして、父の名を借りずに独り立ちしていくお栄の心情を描いていない。「吉原格子先の之図」も真ん中に黒く影になっている花魁のことについては一言も触れていない。「富士越龍図」も龍を描いた意義について触れていない。「夜桜美人図」も善次郎の返事の図でごまかしている。「三曲合奏図」もどのように三人の女を描くかについて、あれこれ考えるように描いているが、所詮結果の図があるので、それに注釈をつけただけのこと。また「小布施の岩松院の鳳凰の天井画」もあの年でどのように描いたかが描写していない。もっと、お栄が父親を亡くしてどう親父の後を引き継ぎ、世間に認められるようになったかが描いてない。善次郎との恋仲がどうの、セックスがどうの、北斎の孫の時太郎がどうしようもない男で、それがどうのというページが多すぎる。広重や滝沢馬琴についての描写が少ない。馬琴に至っては、単に柚子の薬を持ってきただけのことが書いてあるだけ。

2020年9月12日土曜日

Space Odyssey by Michael Benson

   This book, with 497 pages, reveals how Stanley Kubrick made the novel 2001: A Space Odyssey written by Arthur Clark into a movie. It delineates how they made the first scene "Dawn of Man," the device to present the colorful flashing scenes when the man enters another space world, and the first severe criticisms given by professional critics, but the following tremendous good reputation by the general public.

Together with the 2001 movie, several famous movies such as Planet of Apes are introduced. Douglas Trumbull, the visual effects supervisor of Close Encounters of the Third Kind helped Stanley to make the film. The selection of background music such as Johann Strauss’s On the Beautiful Blue Danube and Also sprach Zarathustra composed by Richard Strauss is described in the book..

Kubrick also had a hard time selecting the man who had the most suitable voice for HAL.    

   I now know how difficult it is to make an SF movie. I saw 2001: A Space Odyssey more than three times. After reading this book it would be worthwhile to see the film once again.

2020年8月26日水曜日

太陽の棘 原田マハ

 沖縄に派遣された精神科医エドワード・ウイルソンと沖縄のニシムイという村に住む沖縄人の画家集団との心温まる親交の物語。後半まで平凡な話が淡々と続くが、後半から、特に、元飲んだくれのヒガがメグミを助けるため米軍将校に暴力的にメチルアルコールを飲まされて失明寸前の重症になるところから、急展開し、一気に最後まで読んだ。

多くの思い出を胸に抱いて、エドは沖縄を離れ貨物船で米国に帰ることになるが、甲板から沖縄の島を見ると、ぴかぴか光るものが舟に向かって照射されている。エドはニシムイの画家に鏡を送ったことを思い出す。最後の場面はほろりとさせられた。

最後の見せ場を見せるためにそれまでの淡々とした下地がうまく機能している。

実在人物にインタヴューして書き上げた。

本の表紙と裏表紙に肖像画があるが、表はエドの肖像画で、裏はタイラの自画像らしい。しかし、この絵は邪魔だ。読者を惑わせる。misleading!

どうせ、肖像画を載せるのなら、一番激しい登場人物、ヒガが書いた肖像画を載せるべきだ。私は、裏表紙はヒガが描いた自画像とばっかり思って読んでいたが、そうではなかった。読者の先入観を操作してはいけない。


2020年7月22日水曜日

心に太陽を持て 山本有三

少年少女がこれから多難な世の中にいくとき、先人たちはどのように生きたかが描かれている。特に南極の極地点に二番目に到達したスコットの悲劇と、パナマ運河をどのように完成させたかの苦労話が詳しく書かれており、感動した。スコットの日記も原文で読み心を打たれた。
少年少女に勧める一冊である。

Indian Camp by Hemingway

 Nick, after experiencing life's hard moments such as the birth of a baby and the Indian husband's death, seems to be very alive. Hemingway writes, "he trailed his hand in the water. It felt warm in the sharp chill of the morning. . . . he felt quite sure that he would never die."
The contrast of sad and noisy airs in the shanty and the calm river atmosphere is
so vividly illustrated.

An Alpine Ddyll by Hemingway


Hemingway’s writing style is concise, simple, and never laborious. He writes only necessary matters and facts as you see them. “An Alpine Idyll” is one such short story.
This is a black humor story. The two skiers come down from a month-long ski life in the mountains. They drink beer at an inn. The innkeeper is disgusted with a peasant, who says he had hung his lantern from his frozen wife’s open mouth while he cut out the big wood. The story is simple. It does not move your heart. The contrast between the ill-natured deed of the peasant and the drinking beer under the bright May sunlight is big.

2020年7月10日金曜日

君たちはどう生きるか  吉野源三郎著


 1937(昭和12年)、すなわち昭和16年の対米戦争に突入する4年前の発行で、いわば軍国主義が台頭しつつあるとき、日本の少年少女に古今東西の知の世界を知らしめるべく「日本少国民文庫」全16巻を出版した山本有三、吉野源三郎、その他の著者と出版した新潮社に敬意を表したい。
「君たちはどう生きるか」は倫理を説く話であるが、著者は道徳臭くならないように、コペル君を主人公にした物語風にしあげ、コペル君の叔父さんがいろいろ人生のことを教えてくれる形式になっている。この手法がいい。
私は三点が印象に残った。
  豆腐屋の浦川君の話。
私の家は曽祖父が岐阜県の味噌醤油醸造業で、父が三代目である。私は「味噌屋の子」であることが嫌だった。汚らしくて味噌臭く、会社員の子のほうがいいと思っていた。あの頃、浦川君が物を生産し、人のためになっている、ということが書いてあるこの本を読んでいれば、そんなに味噌屋を卑下しなかったかもしれない。
  コペル君の裏切り
コペル君は友達がいじめられているのに、隠れていたことを後悔する話があるが、私は現職教師のとき、いじめの問題をきちんと指導ができなかったことがあり、今でも後悔の念にかられることがある。
  仏像のこと
私は歴史が好きなのに、仏像をギリシャ人が造ったということは知らなかった。日本から古代ギリシャに繋がっているという古代世界にいざなわれた。

戦前にこのような素晴らしい本を読むことができた少年少女はごく僅かだと思うが、彼らはラッキーだった。

2020年7月8日水曜日

Sarrasine by Balzac


Balzac’s scheme is so successful that I thought Zambinella was a woman, a beautiful, fragile, womanly perfect woman. However, in the end he reveals that Zambinella was a man. I think every reader will be deceived, and will be shocked as much as Sarrasine. He is stabbed to death when he was in the height of disappointment, anger, sadness, revengefulness, despair, and madness. I sympathize with him. He was made fun of by Zambinella, was disappointed and was killed.
This is a tragedy as well as a comedy. In the last page Madame de Rochefide gets angry to know the ending of the story. She resembles with Sarrasine because both of them become furious at the bad ending. Balzac apparently tried to add some moral taste, which ruins the entertaining element of the story.
Balzac is successful in representing the feeling of the reader. He knows how the reader feels at the shocking revelation. He spends more than one page describing the feeling of Sarrasine. If Balzac had spent only one or two lines to describe Sarrasine’s feeling, that would frustrate the reader. By writing as much as almost two pages, the reader’s psychological unbalance will be cured. The reader always wants a well-balanced ending.

2020年7月3日金曜日

1949 by George Orwell.


I first thought Winston and Julia would undermine Big Brother at the end of the story, but my guess was 180 degrees betrayed. Like “Animal Farm,” Big Brother (Napoleon) wins and destroys Winston completely.
Secondly, I was surprised that O’Brien was a Thought Police member, who at the end of the story destroys Winston’s sanity and makes him half insane and half-unconscious by torturing him physically. Orwell excellently misleads the reader. Almost every reader may think that O’Brien was Winston’s strong ally.
Thirdly, Big Brother changes the rebellious thought to the obedient thought and kills the “criminal,” after making him unconsciously “love” Big Brother.

Some of the points the book reminded me of:
1.    What has become of Julia?  Orwell does not reveal it. 

2.    Nowadays Telescreens are everywhere, at every street corner and stores. Such security cameras can single out criminals and wanted people among a crowd of people. They are telescreens.

3.    By brain-washing, you can hypnotize the normal people’s thoughts as in the case of the Sarin Incident, where many young intellectual people became the victims of brainwashing and did a savage crime. They were not tortured, but brain-washed.

4.    China and North Korea govern the citizens by the totalitarian ideology. Those who are against the Party’s policy are expelled or executed. Recently China passed a national security law. Now China can arrest any person that they think is dangerous to China and put him or her to a lifelong sentence.

5.    During the era of Qin Shi Huang, the first ruler in China around 240 B.C., showed a horse to his subordinates and said, “I think this is a deer. What do you think?” Those who said it was a horse were killed. Thus, he eliminated those who were against him.

2020年6月28日日曜日

腹中の敵 松本清張

 丹羽長秀は信長の重臣であったが、新鋭の新鋭の羽柴秀吉が破格の出世街道を驀進していくにつれ、自分が追いつかれ、追い抜かれることを恐れながらも、秀吉の口のうまさに載せられ、虚栄と善人ぶりにより、思っていることと裏腹な行動をとってしまう自分自身に嫌悪を感ずる。
特に信長の跡目を誰にするかの瀬戸際で、長秀は心にないことを言ってしまい後悔するがどうしようもない。秀吉の天下になってからも不満が募り、切腹する。腹から出てきた黒い塊を秀吉とみなし、切り刻む。
一貫して、長秀の心の動きを克明に描き出しており、感情移入した。小説は主人公の心の葛藤を描き出すことにより、読者をひきつけることができる。

2020年6月26日金曜日

柘榴坂の仇討 浅田次郎


 井伊直弼の暗殺を素材にした短編。巧くできている。
明治の世になり、敵討ちはご法度となった時代に、直弼の駕籠かき役であった志村金吾が、今では車屋になった水戸の浪士、佐橋十兵衛と会い、殿の敵討ちをするかに見える場面を描く。
以下、うまくできている点いくつか。

1.佐橋が直弼の直の一字を取って、「直吉」に名前を改めていること
2.脇差で決闘をしようとしたこと
3.金吾の敵討ちをせんとする心情
4.共に相手の心が分かり、水に流すこと
5.直弼が「命を懸ける者の命を粗末にしてはならぬ」と言う言葉を守ること

牽引力があり、最後はどうなるかと思わせる筆致である。
秀逸。
歴史的重大事件の陰に翳って見えなくなっている人物にスポットライトを当てて見事に生々しく描いた。

2020年6月25日木曜日

「光秀の友 吉田兼和」 山口昌志


神官兼和が明智光秀と昵懇になり、信長を討つ陰謀に加わり、信長を倒した後、己の神官の位を上げるため、ますます光秀に取り入る。しかし、秀吉が中国から取って返すと、光秀との関係を消そうとするが、日記を指摘され、万事窮すとき、信長の刀を光秀の形見をして、弟が届ける。この刀を秀吉に贈り、度量の大きい秀吉に許される。
話が、うまくできている。特に絶体絶命の時に伏線として貼ってあった刀が最高の小道具として生かされる手法はうまい。
時代物だが、明治時代以降の言葉使いが多くて、これでもいいのかと思った。回顧場面もあったが、これでもいいのだろう。「昵懇」「友情」などの言葉。風呂に入るという文言が5回ぐらい出てくるが、これはくどい。何事か風呂で起こるのかと読者は思ってしまう。時代物らしい人物の言葉使いが良い。
「兼見卿記」を原本にしているよう。見比べてみたい。

2020年5月18日月曜日

熱源 川越宗一著

なぜこれが直木賞なのかわからない。スケールがでかいのはわかる。登場するのがアイヌ人、ポーランド人、日本人、樺太人、ロシア人と多彩で、一人一人が本の中で動いているが、どの人にも感情移入ができない。主人公が多すぎるからだろう。
一体この本は何の目的で書いたのか。アイヌの悲哀を書いたのか。戦争の悲惨を書いたのか。大目的に向かって進んでいくという牽引力がなく、途中で飽き飽きしてきた。
「公募スクール」のSという添削講座の講師が、キャラの描き方は川越氏が天才で、私は足元にも及ばない、と言っているが、天才的なキャラは見られなかった。読み方がまずいのか。
感心するのは歴史的事実をこのような大作に仕立てたところだ。ただ、風呂敷を広げすぎで、焦点がぼやけている。何でもかんでも、この当時(第一次大戦、日ロの戦線)の状況を迫力ある描写で個々の場面ごとに描いているが、金田一京助、白瀬中尉、二葉亭四迷が登場して、何が何だか分からなくなる。
最後の部分も中途半端な終わり方をしていて、しっくり落ち着かない。これだけのページ(426ページ)を読んだんだから、もっといい終わり方があるだろう。それに、ヨヤマネスク、シシラトカ、徳次郎が偶然遭遇しすぎ。話が一本通っていない。
アイヌ語とロシア語、時代背景をよく調べてはある。
感動がないのが最大の欠点。
川越氏は秀吉の朝鮮征伐についても三人の主人公を出しているが、この手法は余りいただけない。
語句の使い方をいちいち点検しながら読んだ。文章がぎこちなく、なめらかに読んでいけない。翻訳調の日本語がたくさん出てくる。

2020年4月20日月曜日

火天の城 山本兼一

松本清張賞受賞作品として読んだ。
作法は、章ごとにいろいろなエピソードを提示してある。この章は石垣の石の話、この章は木材を切り出す話、その他、番匠間の争い、岡部又衛門と息子の以俊(もちとし)のいがみ合い、以俊と女、耶蘇教の神父、安土の土地、又衛門の落下の怪我などなど。
しだいに細部を攻めていって、ジグゾーパズルを完成するように、安土城を上げて築き上げていく。最終仕上げは狩野家の絵かきで襖に描かせる。
フィクションとして面白いのは、壁が重くて心柱を四寸切り出す場面。地下蔵に火薬が仕込まれ爆破すすると城が崩れるという仕掛け。
伊賀と甲賀者が城を狙っているのに、なかなか仕掛けないのは筋としては変だ。
章ごとに話を区分けするのはいいが、バラバラで統一性が取れていないが、こういう書き方しかないのだろう。
最後の場面、明智光秀が謀反を起こしてからの展開がハラハラドキドキであった。一体、城はどうなるのかと思った。安土城跡に登ったことがあるが、小高い山があるだけで、何の城の形跡もない。一読者として著者と一緒に城を造ったような気になっており、燃えてしまうのはいかにも残念に思った。三年もかけて築城したのに一夜で燃えてしまうとは、悲しく惜しい。織田信雄が親父信長のやり方が気に食わなかった(坊主憎けりゃ袈裟までも)ために、城が燃えてもいい気味だと思ったというフィクションも効いていた。
それにしても、著者山本兼一は巻末にあるように多くの書籍を読み、多くの人から取材しているのには感服した。山崎豊子流の取材だ。

2020年4月18日土曜日

The Fly by Katherine Mansfield

How cruel a human being can be! He has lost  his son and knows how grievous it is to lose one's own son, yet he literally kills the fly. A cruel deed. The bad and angy impression remained for a while after finishing reading the story.

2020年4月11日土曜日

古都 川端康成


キャラが立つとは、こういう書き方かと思った。苗子の気持ちが手に取るように、心が痛くなるほど、じんじんと響く。同じように、千重子の心情も良く分かるように書かれている。

話の設定がうまい。双子の一人は山育ちで、もう一人は京都の呉服屋のお嬢さん。その二人が偶然神社で遭遇する。苗子は常に千重子を「お嬢さん」と呼び、大事にしている。千重子は捨子なのだ。そこに織物屋の秀男が登場して「幻」の苗子に結婚を申し込む。なんという奇抜な話の展開。著者は秀男が誰と結婚するかは語らずに話を終えている。あとは読者の想像に任せるというエンディングだ。

秀男が苗子と結婚しても、千重子と結婚しても、いずれにせよ、他方がどう思うかが問題である。千重子と結婚するようなニュアンスで終わっているが、苗子はどう思うだろうか。運命のいたずらにしては大きすぎる。

二株のすみれの花が、二人を象徴しているようで、うまい小道具の使い方である。

ただ、「古都」は半分が京都の寺社、風物、祭り、伝統、それに呉服のことなどの説明が多くて、初めのうちはなかなか話が進展せず、退屈であったが、二人が神社で会ったところから、急に話に弾みがついてpick up momentum、あとはどんどん読み進めた。京都の風物紹介型小説。

2020年4月8日水曜日

The Poor Relation's Story by Charles Dickens

   After reading the story, I did not comprehend the deep meaning and grand scheme provided by Dickens. In fact, I did not understand why Dickens worte such an intricate story. However, thanks to the study essay written by Professor Mamoru Kadota, I understood the story very well and was amazed at Dickens grand design.

The story develops this way:

1.    The protagonist first tells a story which sounds true but it is embedded with a few skillful lies.

2.    He suddenly denies the story by saying “The story I have so far told you is a lie.”

3.    He then proceeds to tell a second story that sounds true, but this is again a lie, a bigger lie, that is 180 degrees opposite to what really takes place around him. The story, however, describes how his dream has come true.

4.    In the end he finishes his story with a punch line that tells his second story is also a lie.

       The writer is behind the scene and manipulates the protagonist AND the readers. The readers will wonder what is true and what is fake. This true-or-fake story is up to date reflecting the present world full of fake news




2020年4月7日火曜日

白壁の樹の下で 青山文平

最初の道場破りの場面は面白いが、その後の展開がのろくて、退屈。全然のめり込んでいかない。しかし、登の恋人が殺されてから、急にのめり込み、筋を追っていくようになった。
特異な点
〇一つの文章ごとに、改行しているが、改行し過ぎではないか。分量を増やすためか。
〇刀を取り返すために人を殺めるだろうか。
〇登の剣道仲間が次々殺されることによって、読者をひきつけている。
〇剣術の技の描写が巧みだが、著者はどのようにして、技を調べたのか

2020年4月6日月曜日

西の人気男 「シング戯曲全集」

西の人気男 「シング戯曲全集」

芥川龍之介が「鼠小僧次郎吉」を書いたが、彼はこの話を「西の人気男」を読んで着想を得て書いたそうだ。読むとなるほどと思った。
俺は父親を殺したと威張る男が村人から格好いい男ともてはやされ、若い女や婚約中の女性も彼をほめそやすが、殺したはずの父親が現れて、法螺であることがばれ、女や村人からさんざんな目に合う。
芥川の鼠小僧次郎吉も「俺はかの大盗賊だ」と法螺を言い放題で、宿の亭主や小僧たちは偽次郎吉をもてはやすが、その偽男の話をしていた男こそが本物の次郎吉であったのだ。
「シングの戯曲」からヒントを得て、時代と場所をすっかり変えて、エンタメとしてはよくできた話に仕立て直した芥川に敬意を表したい。

2020年3月29日日曜日

太陽系最後の日 アーサー・クラーク

「太陽系最後の日」の著者は、映画「2001年宇宙の旅」2001 Space Odysseyの原作者、Arthur C. Clarkeの作品で、原題はRescue Party(救助隊)。1946年の短篇。
作品の発想が奇想天外。あと数時間で太陽が爆発して地球が破壊されるというときに、地球人を救おうとAlveronが率いる宇宙船が地球に向かうが、地球に到着しても地球人を発見できない。あきらめて地球を脱出するときに何千というロケットが地球から宇宙空間に飛び立っているのを発見する。地球人は知性が劣ると思っていたが、そうではなかった。エンディングでは、after all, we only outnumber them [earth peopl] about a thousand million to one."(我々は地球人より10億倍の数がある)と冗談を言っていたが、20年後には笑い事ではなくなる。
クラークは小説の舞台を地球爆発寸前の場にした。そこで宇宙人が地球人を救出するという、とんでもない発想で、小説を書いたが、そのひらめきがすごい。エンディングもいい。真似ができるものではない。
   Averon and his race, highly advanced space creatures in the universe, try to rescue people on the earth, whom they think primitive. However, at the end of the story they are surprised to see thousands of rockets flying into space, escaping the explosion of the earth. Averon is surprised at the highly advanced technology accomplished by the people on the earth.                                                                                                                                         

2020年3月5日木曜日

The Necklace by Guy De Maupassant

Questions on "The Necklace"

1. It is unnatural for Loisel to go to Forestier to borrow the jewel because Loisel "would so  have liked to please, to be envied, to be charming, to be sought after." In other words, she disliked to be pitied, to be sympathizied, to disgrace herself, to be looked down upon. She is the least women who would borrow a jewel from her aquaintance. That would be a shame for her. Borrwoing the jewel from Forestier is unlike Loisel.

2. Why didn't Forestier say, "But this is paste. Is it all right with you?" Maupassant intentionally hide the truth, for the sake of the last surprise. This is a dirty trick. 

3. When Loisel returned the neckless to Forestier, she said, "You should have returned it sooner, I might have  needed it." But Loisel had written to her that she was having the necklace mended. Therefore, Forestier's words sound too cold. Moreover, she had a lot of wonderful  jewels besides the necklace. She could have worn any one of them.

4. When Loisel happened to meet Forestier after ten years' interval, she 'accuses' her by saying, "... and that because of you!" But Forestier is not responsible for the hard work she underwent. The words "becasue of you!" is too harsh and pointless.

2020年2月17日月曜日

暗殺剣虎の眼 藤沢周平


達之助は、父を闇討ちした男が大四郎だと思い込んで大四郎に挑むが、(読者は大四郎が父の仇ではないことは、作家の引っ掛けだと分かる)、実は仇は達之助の妹が嫁いだ周助という男であった。

このような読者を馬鹿にした話はない。周助が仇というのは偶然過ぎて突飛すぎる。こんなことならだれでも書ける話だ。Aという男を犯人臭く描いておいて、最後の最後にまったく。新しいBを登場させて、Bが犯人だという。読者を馬鹿にしているが、選者の杉本章子と宇江佐真理はべた褒めしている。選者もおかしい。

2020年2月13日木曜日

The Birthmark by Nathaniel Hawthorne

   This is  an allegory of human folly. It  suggests man should not pursue perfectness. 
   Aylmer, a proud scientist, tries to remove his wife's birthmark on  her cheek. The operation is  perfect and it completely disappears to his ecstasy, but he loses his wife's life in return for the success. To try to attain perfectness is, in Hawthones' view, blasphemous.
   Hawthorne's way of writig is too elaborate, too minute, too philosophical, and too wordy. The description of Aylmer's scentific experiments is imaginary and does not sound real. He uses 1000 unnecessary words to say one thing which can be expressed in five words. Enough is enough.
One Japanese old saying tells the key point of the story: Tsuno wo tamete ushi wo korosu, meaning: Trying to make the the bull's horns straight , you kill the bull.

   


2020年2月11日火曜日

Jamaica Inn by Daphne du Maurier


 I saw Hitchcock’s movie under the same title decades ago. It was thrilling, exciting, and fearful. The ending where the leader of the pirate was revealed was astonishingly surprising. Therefore, I was not surprised to read the ending part this time.

 I admire the writer’s excellent and minute description of the scenes and the protagonist, Mary Yellan’s psychology. Joss’s rough and forceful way of talking is well written.

 I had expected to read the scene of attacking a ship more precisely, but it was, to my disappointment, too brief. Also, the writer should have written how Joss obeyed the vicar’s direction vividly.
   The first half of the story is very intriguing, but the ending chapter where Mary and Jem talk is too long and too tiring.

2020年1月30日木曜日

腸詰小僧 曽根圭介

「宝石ミステリー2」の中にあるミステリー小説12編読んだが、どれもこれれも、種を明かされて大して驚かなかった。アッと言わせるようなトリックが使われていない。調べてくうちに芋づる式に真相が分かってくるという仕掛けで、逆に言えば、真相を小出しに出していく手法で、誰でも書けそうなミステリーだ。
その点、「腸詰小僧」は秀逸。芋づる式になっていなく、二つのストーリーが最後に合体するようにできている。しかも、殺人犯は犯行直後自殺していて、誰もわからない。犯行に導いた主人公はときどき後味の悪さを一生背負っていくだろうが、そのうちに薄れていくだろう。弟夫婦を救ったし。
ただ、不満なのは、ネタバレ!!!
「同封したのはボクの作ったオリジナルソーセージです」で小僧といい、ボクといい、インチキではないか。

2020年1月27日月曜日

夜と霧 ヴィクトール・フランクル

ナチスドイツによるユダヤ人収容所に収容されたある心理学者が書いた、収容所生活で見たこと考えたことが具体的に書かれている。衣食住が極限状態の上に,厳寒のなか集団労働に駆り出される毎日が続く。いつ解放されるともしれずに、ただただ一日を生き延びる、ガス室に送り込まれずに、重労働につく運の良さ。一切れのパンをどう食べるか、いっぺんに食べるか、翌朝まで取っておくか、最悪の状態の中で、どういう人が生き延び、どういう人が、絶望して自暴自棄になるか、詳しく書かれている。
人生観が変わるくらい、衝撃が強い本だ。この年になるまで、こんなすごい本があることを知らなかった。今の贅沢三昧の日本人は襟を正して読むべきだ。