2020年5月18日月曜日

熱源 川越宗一著

なぜこれが直木賞なのかわからない。スケールがでかいのはわかる。登場するのがアイヌ人、ポーランド人、日本人、樺太人、ロシア人と多彩で、一人一人が本の中で動いているが、どの人にも感情移入ができない。主人公が多すぎるからだろう。
一体この本は何の目的で書いたのか。アイヌの悲哀を書いたのか。戦争の悲惨を書いたのか。大目的に向かって進んでいくという牽引力がなく、途中で飽き飽きしてきた。
「公募スクール」のSという添削講座の講師が、キャラの描き方は川越氏が天才で、私は足元にも及ばない、と言っているが、天才的なキャラは見られなかった。読み方がまずいのか。
感心するのは歴史的事実をこのような大作に仕立てたところだ。ただ、風呂敷を広げすぎで、焦点がぼやけている。何でもかんでも、この当時(第一次大戦、日ロの戦線)の状況を迫力ある描写で個々の場面ごとに描いているが、金田一京助、白瀬中尉、二葉亭四迷が登場して、何が何だか分からなくなる。
最後の部分も中途半端な終わり方をしていて、しっくり落ち着かない。これだけのページ(426ページ)を読んだんだから、もっといい終わり方があるだろう。それに、ヨヤマネスク、シシラトカ、徳次郎が偶然遭遇しすぎ。話が一本通っていない。
アイヌ語とロシア語、時代背景をよく調べてはある。
感動がないのが最大の欠点。
川越氏は秀吉の朝鮮征伐についても三人の主人公を出しているが、この手法は余りいただけない。
語句の使い方をいちいち点検しながら読んだ。文章がぎこちなく、なめらかに読んでいけない。翻訳調の日本語がたくさん出てくる。