2023年12月24日日曜日

鬼火の町 松本清張

 松本清張の時代推理小説を初めて読んだ。

出だしから面白い。二人の死体が川から上がり、事件がどんどん展開していく。岡っ引の藤兵衛が事件を捜査するが、同心に手を引くように言われ、十手を返す。事件は大奥の美代の女中・浦風や寺の善了坊主や徳川家斉、奉行所などを巻き込んだ大掛かりなものとなる。最後の二ページぐらいで種明かし(巧く対話形式にしてある)をするが、種を聞けば、余りにも呆気ない。どの推理小説もそうだろうが、種明かしでなんだか、がっかりする。清張の時代考察は念がいっており、江戸時代の捕物の背景をよく調べている。また、話しの展開が巧い。人物の心理描写や、事件のあらましとまとめをうまく取り入れている。

2023年12月23日土曜日

天涯の海  車浮代

 半田の酢を創業した三代にわたる中野又左衛門の物語。酒屋の酒粕から粕酢を考案し、酢を醸造酒の仕事から切り離し、酢の醸造にまい進した一代目、二代目が江戸鮨の酢を考案し、三代目がさらに発展させ、半田の村民のために水害を機に尽くした。

よく調べて執筆している。ただ、展開にデジャブ的な会話があり、真に籠っておらす、上辺だけで話を続けた感がある。特に先代が亡くなって行くとことなど。誰でも考えつくような対話が続く。また、『天涯の海』の舞台として奥の細道の地図が載せてあるが、あまり意味がない。二代目だったか三代目が奥の細道の行程を辿って平泉に行くが、その二十日間の旅の中身は三四行で終わってしまっている。帰ってからの旅の思い出話も紋切り型でつまらない。

最初の酒が焼けた場面からの出だしはいいが、あとが続かない。当時の言葉遣い(半田弁、江戸詞の使い分けがきちんとできていない。

野田醤油の発展の小説を考えているが、少しは参考になった。

どちらにせよ、山吹の酢が繁盛するようになった苦労話、三代目が地震と津波のあと、私財を投じて屋敷を作る辺りは読者を引き付けた。



2023年12月10日日曜日

地中の星 門井慶喜(かどいよしのぶ)

 「yomyom」に、2018年2月号~2020年6月号号(約二年半)かけて書いた。地下鉄の父と言われた、早川徳治の物語。早川がどのようにして地下鉄を東京に開通させ、どのようなトラブルがあったか、克明に描いている。大物財閥、や大物人材が登場する。五島慶太、大隈重信、渋沢栄一、佐藤栄作等。その大物に作中で話させるのは痛快だろう。地下鉄の開通にまつわる様々なエピソードを相当に読み漁って書いたことが伺える。

門井は「江戸を建てる」など、無から壮大な有を造り上げる小説を書いている。調べれば書けないこともないだろうが、会話とか状況とかの設定が難しい。

江戸醤油を売り込んだ高梨兵左衛門の話を考えているが、今のところ皆目見当が付かない

2023年11月8日水曜日

Marigolds by Eugeia Collier published in 1969

This is a very good short story. It depicts the transition of a girl (Lizabeth) from childhood to adulthood. A child is innocence. He or she hurts others without thinking about their feelings. Miss Lottie, who was called a ‘witch’ by her neighboring children, grows marigolds. Growing them was the only retreat from her dusty, harsh, ramshackle life. But, since Lizabeth destroys all the marigolds, she quits growing them. Lizabeth recognizes what she has done to Miss Lottie only after the destruction and observation of Lottie’s sad face. This is her moment of transition.

The story ends with this:

For one does not have to be ignorant and poor to find that his life is as barren as the dusty yards of our town. And I too have planted marigolds. 

2023年10月22日日曜日

Catcher in the Rye by J.D. Salinger published in 1951

This is an interesting, amusing, and funny story. It is a collection of the episodes that describe the life of the protagonist, Holden Cadifield. He is 17 or 18 years old.

Each episode is written in a casual and carefree way with a lot of colloquial expressions and slangs. His episodes are about his friends, his teachers, his brother and sister. What makes the story interesting is that he tells his true feeling about the things he does or he says.

Here are some of the impressive expressions:

He took my mind off from the other stuff.

I sat down in the vomity-looking chair.

Which always kills me.

I’m always saying, “Glad to’ve met you” to somebody I’m not at all glad.

If you want to stay alive, you have to say that stuff, though.

What I did, I finally put my suitcase under my bed, instead of the rack, so that old Slagle wouldn’t get a goddam inferiority complex about it.

“Yeah. Wanna talka Sally. Very important. Put her on.

Excuse the appearance of the place.

I’m a moderate smoker.

When something pervert like that happens, I start sweating like a bastard.

 

 

2023年9月14日木曜日

滝沢馬琴 杉本苑子

杉本苑子の大作二冊目『滝沢馬琴』を読了。『弧愁の岸』に劣らぬ描写と史料蒐集に感嘆す。

馬琴が頼みとしていた、まだ目が見えていた片目が失明する処から話が始まり、82歳で没するまでが事細かに描かれている。27年間掛けて書き上げた『南総里見八犬伝』も、我々現代人が手に取れば、艱難辛苦をなめなめ書き上げたと思えないのだが、実のところ、相当な苦労の中で書き上げたものだ。律儀な長男宗伯を若くして亡くし、妻のお百は自分の都合だけを考え、著作には全く理解を示さない、長女お幸の夫、清右衛門も死去するし、妹お秀の子和助とお加乃の心中、跡取りの孫の太郎は病弱で跡取りの自覚が足りない。板元や同業者の足の引っ張り合い、改作、偽作など、一日たりとも平安に著作した日はないほどだ。なかでも、興味深く読んだのは完全に失明してから、代筆を四人ぐらい使ったが、どれもこれも代筆が馬琴の思うようにできない。最後に嫁のお路が「わたしが遣ります」と申し出るに至り、無学のお路に文字を教え、漢字を教え、一字一字著述していく姿は何としてでも『八犬伝』を書き上げるという意欲が現れていた。

完成した暁の馬琴とお路の喜びは例えようもなかっただろう。

お路も代筆をしている間に、文を書くことを覚え、最後のページで達意の候文を書いている。これも感心した。

それにしても、杉本苑子はどのようにして『滝沢馬琴』を書いたのだろうか。馬琴は日記をつけており、全五冊の日記集がある。三巻まで見たが、三巻目までは宗伯が生きていた。四巻と五巻に失明以降のことが書かれているのであろう。馬琴は日記のほかに全七巻ほどある『馬琴書簡集』なるものを遺した。杉本氏は紐解いた解いたのであろう。

日経新聞の小説で朝井まかて著『秘密の花壇』という馬琴を扱った小説を読んだが、お路に対する態度が、杉本氏の作品の方が寛容さが表れていた。日記と書簡と朝井作と杉本作を読み比べると面白いだろう。

2023年9月12日火曜日

Bartleby, The Scrivener by Herman Melville

   This is one of the most difficult story I have ever read. I was not able to figure out what Melville wants to say. First, I thouoght Bartleby was a sort of God, but then I regarded him as Fate, because you cannot change your Fate however way you try. The narrator trys to change his manner but failed in his attempts and gets rid of himself and leaves the office. Finally, the narrator reveals his job before he came to the narrator's office. He was working for a Dead Letter Office. I then thought Bartleby was death itself. From the first appearance he was like a dead man and at the end of the story, the narrator depicts him as a sort of dead man or body.

He had no hope, nor aim in life, faced the dead wall and died of hunger. What a pity!  

I resent the way the narrator handled Bartleby. He was so generous. He should have forced Bartleby to go out of his office even with the help of the police. 

Anyway, this is a difficult story. Various interpretations are possible. I checked the Internet, and found not a few questions were asked about "Bartleby," a mysterious existence.



2023年8月13日日曜日

「ラジオビジネス英語」 ”NHK Radio Business English”

 ラジオビジネス英語

「NHKラジオビジネス英語」のThe Writer's Workshopで、最優秀賞を受賞した。これまでに最優秀賞は、2011,2014,2018年と、三回受賞していたが、久しぶりの受賞である。この一年間ぐらいは、佳作さえ入賞できず、毎回、「ああ、まただめだ」としょげていた。今回も、せめて佳作をと思って、テキストを捲ると、な、なんと、最優秀賞に名前が載っていた。素晴らしい。没、また没、またまた没の連続で、テキスト代550円が、もったいないと思う毎月であった。

この三カ月ぐらいは、日本語の課題文に引きずられない英文を心掛けていた。また、難しい、馴染みのない表現は避け、英語らしい英文を描くように心がけていた。訳し落としや、日本語の意味の取り違えなどに細心の注意を払ってきた。その成果が出たのかも知れない。

今後とも最優秀賞を獲るべく、日英の語学力を磨いていきたい。

2023年8月10日木曜日

弧愁の岸 杉本苑子

 宝暦治水を扱った大作を読み終えた。

同じ題材を扱った「暴れ川」(原稿用紙60枚)を私は数年前に著し、岐阜県文芸祭賞を受賞しているから、木曽、長良、伊尾の三河川の治水については詳しく知っているつもりであった。しかし、この大作を読み、驚いた。

歴史的事実を徹底的に調べ上げたことが伺える。特に平田靱負が30万両を如何に工面したか、大阪商人との駆け引き、薩摩藩の庶民に課した重税などが詳細が描かれている。恐らく、著者は薩摩藩史や岐阜県史、三重県史を紐解いたのであろう。

江戸幕府の仕打ちに、どう対応するか激しい論議も、くどいほど描かれている。幕府との戦いに完敗する悔しさと、美濃の農民を助ける奉仕の精神との葛藤が、藩士同士の論戦で描かれている。

また、村人や庄屋や郡役人の金儲け主義の汚さも抉り出している。

工事の困難さも詳しい。水の恐ろしさ、村人から町方工事人への切り替えをどう進めるか、靱負の遣り口も詳しい。

多くの犠牲者を出し、責任を取って一人、切腹する平田靱負が哀れである。

薩摩藩士の墓が桑名の海蔵寺(私の父の学友が住職であった。また私の妻の実家の菩提寺でもある)にあるが、大牧村本小屋から船で遺体を桑名にまず運んで、経をあげたのであろう。その後、伏見の菩提寺・大黒寺に埋葬されたのだろう。

どのように杉本苑子が書き上げたか知りたい。近いうちに治水神社に行き、霊に合掌したい。

「弧愁の岸」というタイトルの「弧愁」は「一人物思いに沈む」と言う意味。一人は靱負のことであろう。「岸」は遺体が揖斐川を下る時、左手に油島千間堤を見るが、その岸であろう。

住みなれし里も今さら名残にて 立ちぞわずらふ美濃の大牧 (靱負の遺文)

2023年6月11日日曜日

小坂部姫 岡本綺堂

岡本綺堂の想像力の逞しさに脱帽。出だしの兼好法師を訪う小坂部姫の遣取りといい、高師直の娘と兼好が言葉を交わす場面といい実に面白い。暗黒の世界の使者の男の謎が読者を引き込んで行く。謎の男の妖術が次つぎと戦乱の世を作出し、応仁の乱の混乱も謎の男が引起こしたかのように話は展開する。歴史的事実を後から作者は巧く利用している。秀吉が二代と続かないのも小坂部姫の呪いとして使っている。最後の場面で秀吉と姫の遣取りも面白い。徳川家康が姫路城天守閣を粗末にするな、の教えに従ったため260年の安寧が続いた下りも妙に納得させるようなところがある。純真な小坂部姫が悪の大権現になる点も面白い。エンタメ度90点。

2023年5月19日金曜日

籠釣瓶(かごつるべ)岡本綺堂

 明治5年生まれの作家。三人の登場人物(次郎左衛門、八橋、栄之丞)それぞれの心理描写を克明に描写している、神視点の作品。お大尽の次郎左衛門は千両の大金を吉原の八橋に注ぎこみ、無一文になる。八橋は栄之丞と深い中であり、三角関係。無一文になった次郎左衛門は八橋を切って切腹しようとする。心理描写が微細でくどいくらいに描かれている。次郎左衛門も栄之丞もあれこれ迷う質で、優柔不断でのらりくらりとつかみどころがない。八橋を殺そうと企てる辺りから、俄然面白くなり、一気に最後まで読んだ。

江戸時代の事柄が分かるし、吉原のことも分かる。花魁言葉も巧みに使っている。


2023年5月12日金曜日

On the Divide by Willa Cather

Cather's description is so vivid and minute that you can visualize each scene. The development of the story follows the authodox way of story telling. That is, let the protagonist, Canute, faces as much hardships as possible: He is a barbarian, his manner wild, his shanty weird with snaky decorations on the entrance door and on the window sills ; while Lena Yensen ditests him very much. She says, "And [Canute's] hair that ain't been cut since he was a baby, and a big dirty beard, and he wears overalls on Sundys, and drinks like a pig. Besides he will keep."

At the end of the story, however, he succeessfully gets married with Lena, by force. He  abducts Lena and forces the priest to marry them. 

Overall, the worse the hindrance, the better the ending.

2023年4月30日日曜日

アサッテの人 諏訪哲史

 芥川賞を取った小説ということで、読み始めたが、生理的に受け付けない。話が多方面からの視点で語られ、作者があちこち顔を出す。主人公の叔父が突飛もない言葉、ボンパを発する。叔父の吃音が急に治ったり、エレベーターの中を見るカメラを通して中の人物のありのままの姿を描くなど、叔父の日記からの引用が続き、話が飛び飛びで、分かりにくい。

作者は國學院大學哲学科卒業で、哲学が専門。その専門知識と視点を色々変える手法に、作家の声を挿し挟むという”斬新な”ことを考えて描き上げたか。全然面白くない。

時間の無駄で、読むのを途中で止めた。もっと読むべき価値のある作品が一杯ある。芥川賞選考委員の石原慎太郎、池澤夏樹、宮本輝の三氏は「アサッテの人」に授与することに積極的に反対していて安心した。芥川賞受賞作が必ずしもいい作品とは限らない。

2023年4月24日月曜日

Her Lover by Maxim Gorky

 The story is humorous but in the end it reveals the loneliness of a human being. The protagonist Teresa, a giant muscular vigour, is a lonely girl. So she creates an imaginary friends and tries to communicate with them by writing letters and receiving replies. Since she cannot write letters she asks a man to write letters for her. The man finally understands her situation:

"I understood at last. And I felt so sick, so miserable, so ashamed, somehow. Alongside of me, not three yards away, lived a human creature who had nobody in the world to treat her kindly, affectionately, and this human being had invented a friend for herself!"

At the end of the story Gorky explains what he wanted to say in it. The ending part should be ommitted. He should believe in the reading ability of the readers. 


2023年4月21日金曜日

イワン・イリイチの死 トルストイ

黒澤明監督の『生きる』は『イワン・イリイチの死』をヒントにして製作されたと知り、さっそく読んだ。

しかし、話の展開が全く違う。『生きる』は主人公が癌による死を宣告され、余す期間を人のために使う話である。しかし、イワン・イリイチの死』は、主人公(上級弁護士)が無難で、品のある、上流階級の生活を送るが、新築の部屋の模様替えを行っていて、腰を打ち、それが元で、体がむしばまれて行く。死が次第に近づき、生きた屍になる。いつ残された時間を人のために使うかと思いながら読んだが、最後まで死と向き合う自分の情けなさを描いて死ぬ。自分のことを誰も分かってくれない。家族、弁護士仲間、妻、娘の嘘の言葉、世の中の欺瞞、神への恨み、治らない病の苦しみが綿々と綴られる。ここには救いはない。

死ぬ間際に「妻や子がかわいそうだ。彼らがつらい目にあわないようにしてやらなくては。彼らをこの苦しみから救えば、自分も苦しみをまぬがれる。『なんと良いことなんだろう、そしてなんと簡単なことだろう』彼は思った」と、悟りを開くが遅かった。

トルストイは死に直面する人間の救いようのない苦しみを克明に描いた。

心理小説と言っても良い。



2023年3月19日日曜日

吉村昭著『大黒屋光太夫』

 いまだかってこんなに感情移入をした本はなかった。吉村昭著『大黒屋光太夫』(毎日新聞社)である。

主人公・大黒屋とロシアに置き去りになった庄藏。二人の心の裡がまるで我がことのように胸にこみあげる。

「光太夫は、舳先の近くに小市、磯吉と無言で立って前方を見つめていた。その海の彼方には日本があり、そこに向かっているのが夢のようであった。故郷の白子浦を出航したのは十年前で、それからの歳月のことが胸によみがえる。漂流しロシア領に漂着後、苦難に堪えながら生きてきたが、その間に12名が死亡した。さらに洗礼を受けた庄藏、新蔵はロシアの地にとどまり、現在三名のみが日本に向かう船に乗っている。別れに際して庄藏は泣き叫びながら追ってきて、新蔵も最後の別れの折には磯吉にしがみついて泣いたという」同書下巻157ページ。

庄藏は凍傷で足を切断し、義足であった。光太夫、小市、磯吉がロシアのエカテリーナ皇帝に帰国を許可を得るためイルクーツクからペテルスブルグに行った。その間に庄藏と新蔵は日本に帰ることを皇帝は許さないと信じていた。ロシアで死んだ場合、ロシア正教の信者でなければ墓地に埋葬されず、墓地の外に野ざらしになると言われ、二人は改宗した。光太夫が帰り、皇帝が帰国許可をくれたことを知って新蔵は帰国したかったが、宗旨が違うので帰国を無念の思いで諦めた。

光太夫は庄藏には、許可を貰ったなどと、とても言えす、帰国当日の朝、そのことを庄藏に告げる。庄藏は唇を震わせ「連れて行ってくれ。俺も帰る」と泣き叫んだが、光太夫は庄藏を振り切って別れる。庄藏は片足で光太夫を追いかけるが雪の中に倒れる。

何と痛ましい場面か。庄藏と光太夫の気持が胸に迫る。

2023年3月8日水曜日

Not after Midnight by Daphne du Maurier

 I admit the writer is excellent in involving the reader with the story. She skillfully drives the reader to the world of mystery full of Greek myths such as Dinysus, Silenos, and satyr. She associates them with Mr. Stoll so well that the reader thinks Mr. Stoll looks like a satyr. 

However, this story is unsatifcactory. It does not tell how Charles Gordon died nor shows enough motive on the part of Mrs. Stoll to kill her husband. Also, I do not understand the meaning and significance of the title "Not after MIdnight." 

2023年2月25日土曜日

宝島  Treasure Island by Rober Louis Stevenson

 研究社出版の "Treasure Island"(市川三喜註釈)原文を全ページ書写して読了した。書写を始めたのは2020年11月朔日(most probably)あたりだから、今日2023年2月25日で二年三カ月かかったことになる。

一日の書写の量は半ページほどで、都合で書写できなかった日もあるから245ページの書写に相当時間を使ったことになる。二年も経つと、話の筋や登場人物が誰であったか混乱してきたが、とにかく書写し終えた。

主人公のJim Hawkinsのnarrationで話が展開する。読むのに苦労したのは航海用語と帆船の用語、船員同士のjargon言葉が分からない。市川三喜の注釈は懇切丁寧で例文も付け相当詳しい。(教え子の岩崎民平氏が市川氏の訳読を聞いて下書きを書き、市川氏が直した。ちなみに注釈は113ページに及ぶ)。注釈がない箇所は青空文庫の全訳『宝島』と首っきりで読んでいった。訳者は英文学者、小説家の安部知二(明治36-昭和48)氏。安部氏の全訳はよく出来ており、註釈も素晴らしい。

"Treasure Island"で際立っているのはLong John Silverだ。一本足がいい。船と宝の乗っ取りを企む、一癖も二癖もある船乗り。最後まで読者を魅了する。宝はBen Gunがの隠れ家にあったが、難破したthe HispaniolaにJim, Dr. Livesey, Captain Smollett, Bewon Gunが何日もかけて運び、Bristolの港に着く。宝は読者を満足させるだけの莫大な量がある。

Stevensonは不朽の傑作”The Strange Case of Dr. Jikil and Mr.Hyde”や”A Child’s Garden of Verses"その他を書いている。




2023年1月29日日曜日

私が愛したサムライの娘  鳴神響一

 第6回角川春樹小説賞を受賞作であるので読んだ。面白くない。

大風呂敷を広げたが、後は尻つぼみの作品。江戸幕府がフィリピンやインドネシアを支配下に置くという広大な計画を尾張の宗春が妨害する。左内は宗春の命を受けて江戸幕府を倒そうとスペイン船を頼むが、宗春が失脚し、幕府転覆の陰謀は頓挫する。

左内の指図で忍者の雪野は出島の医師ラファエル(スペイン人、自称サムライ)に仕えるが、最後は医師と阿蘭陀に向かう。

話がバラバラで視点がくるくる変わり、読みづらい。主人公は医師か左内か雪野か。本のタイトルはもともと「蜃気楼の如く」であったのが、「私が愛したサムライの娘」に代わった。蜃気楼の如く全てが水泡に帰したからタイトルとしてはこちらの方がいい。

忍者対忍者の対決描写は巧いが、またスケール大きさは素晴らしいが、後が続かない。小説としての一貫性がない。なぜ「角川春樹小説賞」を受賞したのか分からない。



2023年1月14日土曜日

お師匠さま、整いました!  泉ゆたか

 小説現代長編新人賞受賞作品であるので読んだ。応募総数1036編から選ばれた。何故これが新人賞に選ばれたのか分からない。恐らく難解な算術を教える師匠と弟子の関係、最後に寺に奉納する難解な幾何の問題とその回答方法が他にはない独自性があるからだろう。ただ、江戸時代にしては言葉遣いが現代的であり、使われている用語が明治時代以降の言葉であるのが多い。文章も稚拙で改善できるところが多々ある。

何故選ばれたか、2016年の新人賞の選考理由を読んでみたい。