2023年4月30日日曜日

アサッテの人 諏訪哲史

 芥川賞を取った小説ということで、読み始めたが、生理的に受け付けない。話が多方面からの視点で語られ、作者があちこち顔を出す。主人公の叔父が突飛もない言葉、ボンパを発する。叔父の吃音が急に治ったり、エレベーターの中を見るカメラを通して中の人物のありのままの姿を描くなど、叔父の日記からの引用が続き、話が飛び飛びで、分かりにくい。

作者は國學院大學哲学科卒業で、哲学が専門。その専門知識と視点を色々変える手法に、作家の声を挿し挟むという”斬新な”ことを考えて描き上げたか。全然面白くない。

時間の無駄で、読むのを途中で止めた。もっと読むべき価値のある作品が一杯ある。芥川賞選考委員の石原慎太郎、池澤夏樹、宮本輝の三氏は「アサッテの人」に授与することに積極的に反対していて安心した。芥川賞受賞作が必ずしもいい作品とは限らない。

2023年4月24日月曜日

Her Lover by Maxim Gorky

 The story is humorous but in the end it reveals the loneliness of a human being. The protagonist Teresa, a giant muscular vigour, is a lonely girl. So she creates an imaginary friends and tries to communicate with them by writing letters and receiving replies. Since she cannot write letters she asks a man to write letters for her. The man finally understands her situation:

"I understood at last. And I felt so sick, so miserable, so ashamed, somehow. Alongside of me, not three yards away, lived a human creature who had nobody in the world to treat her kindly, affectionately, and this human being had invented a friend for herself!"

At the end of the story Gorky explains what he wanted to say in it. The ending part should be ommitted. He should believe in the reading ability of the readers. 


2023年4月21日金曜日

イワン・イリイチの死 トルストイ

黒澤明監督の『生きる』は『イワン・イリイチの死』をヒントにして製作されたと知り、さっそく読んだ。

しかし、話の展開が全く違う。『生きる』は主人公が癌による死を宣告され、余す期間を人のために使う話である。しかし、イワン・イリイチの死』は、主人公(上級弁護士)が無難で、品のある、上流階級の生活を送るが、新築の部屋の模様替えを行っていて、腰を打ち、それが元で、体がむしばまれて行く。死が次第に近づき、生きた屍になる。いつ残された時間を人のために使うかと思いながら読んだが、最後まで死と向き合う自分の情けなさを描いて死ぬ。自分のことを誰も分かってくれない。家族、弁護士仲間、妻、娘の嘘の言葉、世の中の欺瞞、神への恨み、治らない病の苦しみが綿々と綴られる。ここには救いはない。

死ぬ間際に「妻や子がかわいそうだ。彼らがつらい目にあわないようにしてやらなくては。彼らをこの苦しみから救えば、自分も苦しみをまぬがれる。『なんと良いことなんだろう、そしてなんと簡単なことだろう』彼は思った」と、悟りを開くが遅かった。

トルストイは死に直面する人間の救いようのない苦しみを克明に描いた。

心理小説と言っても良い。