2013年4月14日日曜日

むかしばなし 小松左京

 設定が良い。民俗学の大学講師を背景にちらつかせ、最もらしい話に仕立て、最後にどんでん返しで、姉を殺したという事実が突きつけられる。読者は、ここで驚くが、実はこの話は二重のどんでん返しになっていて、「おかね婆さん……」のところで、婆さんのいたずら話ということがわかる。  
 知識階級が婆さんを見下し、まるで珍しい動物を観察しているような講師と大学生達をギャフンと言わせていて、小気味よい。

小松 左京(こまつ さきょう、1931年1月28日 - 2011年7月26日)は、日本の小説家。『復活の日』(1964年)『エスパイ』(1966年) 『日本沈没』(1973年) 『さよならジュピター』(1982年) 『首都消失』(1985年)

冷たい仕事 黒井千次


 タイトルがいい。冷たい仕事とは一体何かと思わせる。日常生活のほんの些細なことがこのような短編になることに驚いたと同時に、作者の観察力に敬服した。始めはしがないサラリーマンの仕事話かと思いきや、一転して、冷蔵庫の製氷機に溜まった霜の山を取り除く作業の話になる。部下の長沢と主人公が午前三時にやっと霜を取り除き終えた時、読者も達成感、成就感を味わうという仕掛けになっている。 名文: 彼はほとんど収穫の歓びに近いものを常に感じた。 彼は思わず後ろ手に冷蔵庫の蓋を締めて立った。 床の上に倒れてみせた。 がさりと音をたてて獣の肋骨を包む肉のような形の氷塊が取れたのは午前三時に近かった。 黒井千次(1932年5月28日 - )は、日本の小説家。本名、長部舜二郎。「内向の世代」の作家の一人と呼ばれる。日本芸術院会員。