2023年6月11日日曜日

小坂部姫 岡本綺堂

岡本綺堂の想像力の逞しさに脱帽。出だしの兼好法師を訪う小坂部姫の遣取りといい、高師直の娘と兼好が言葉を交わす場面といい実に面白い。暗黒の世界の使者の男の謎が読者を引き込んで行く。謎の男の妖術が次つぎと戦乱の世を作出し、応仁の乱の混乱も謎の男が引起こしたかのように話は展開する。歴史的事実を後から作者は巧く利用している。秀吉が二代と続かないのも小坂部姫の呪いとして使っている。最後の場面で秀吉と姫の遣取りも面白い。徳川家康が姫路城天守閣を粗末にするな、の教えに従ったため260年の安寧が続いた下りも妙に納得させるようなところがある。純真な小坂部姫が悪の大権現になる点も面白い。エンタメ度90点。