2015年8月30日日曜日

花束を抱く女 莫言

 はじめの2ページほどを読んだだけで、どんどん引き込まれ、この女の正体と許嫁との結婚はどうなるのかという疑問が高じてとうとう最後まで読まされた。莫言の勝ちである。小説とはこういう風に書かなければならないというお手本である。最後に、結婚はご破算になり、二人は固く結ばれて死ぬという結末は、まあこれしかないだろう。狐に化かされていたとか、夢だったとかで終わっては台無しだから。 この女は現代社会の悪、人間の業で、それと心中するという展開だ。メタホーにした。ショックと同時に考えさせられるmetaphor小説だ。
 

2015年8月8日土曜日

白檀の刑 莫言

 こんな面白く感動的な小説は最近読んだことがない。
 心理描写がすごい。特に銭知事の最後の場面の心理が手に取るようにわかる。孫丙の周りで義猫や猫集団が猫腔を演ずるのを止めるか続けさせるかの葛藤、ドイツ兵への憎しみと袁世凱から認められたい出世欲との葛藤の描写。 
  趙甲の白檀の刑を完遂しようという意気込み、孫眉娘が銭知事を慕う有様、孫丙が岳飛になり、ドイツ鉄道を阻止する意気込み、どれも充分堪能できる描写力。 白檀の刑の執行過程の微に入り際にいる描写、180回かかって肉をそいでいく刑の方法の凄さ。
  最後の場面の急展開。「芝居は……幕じゃ……」の素晴らしいエンディング。 語り手を次々に変える手法(ある時は孫丙、ある時は銭丁、ある時は眉娘、ある時は小甲が語る)。また、時間的に遡及する手法。 設定が良い。袁世凱や西大后などを登場させ歴史上の出来事のように設定している。また登場人物が親戚同士である。孫丙は眉娘の父親、銭丁の愛人が眉娘、眉娘の夫が小甲。小甲の父が趙甲。趙甲は眉娘の舅ということになる。その人間関係の複雑な関係が面白さを出している。
  訳者によれば、この小説は「徹頭徹尾莫言の想像力の産物」だそうだ。人間の想像力は無限ではないか。 見事な出来栄えだ。