2012年12月23日日曜日

蛍の河


中国戦線中のある出来事を体験談としてではなく、小説として発表した。文体に無理がなく、凝った言い回しがないので、そのまま素直に読んでいける。 小隊長安野の性格描写(自分を頼りにしている、部下思い、このため古参兵に慕われる)、安野と自分との関係の描写が巧み。導入部分でなぜこの話を書くのかを説明しているため読者は納得して読み始められる。(ポーの「黒猫」の手法) 最後に擲弾筒が河の中から見つかり、ハッピーエンドになっていて、読者は救われる。 原稿用紙40枚ぐらいで直木賞をとっている。

2012年12月9日日曜日

海鳥の行方 桜木紫乃

 話の構成、伏線の張り方がうまい。読者に期待をさせておいて最後にその逆をエンディングにしている。読者の気持ちを見透かしている。  具体的には、まず山岸里和が紺野に対して「こいつと戦おう」と読者に話の行方を暗示させる。紺野は暗示に応えるように「おめえみたいなのは、すぐぶっ壊れる」と言う。里和の心に空いた空洞を「仕事で埋めよう」と思う。石崎と釣りをしていて竿の先に「衝撃的な記事がうようよしている」と読者を誘い、最後の場面で石崎(和田)が別れた妻から聞き出す言葉で記事を締めくくれば最高の記事になると思わせる。ところが、「当てる」ことができずに、何も聞かずに最後の場面で「ぶっ壊れる」。 里和が新聞記者を辞めるのか続けるのかはわからない。多分棒に振るであろう。 桜木紫乃(さくらぎ しの、1965年4月 - )は、日本の小説家。北海道釧路市生まれ。釧路東高校卒業。江別市在住。直木賞候補、オール讀物新人賞