草田の言ったことの真偽は疑問が残るが、最後にあっという毒をもってある手腕がすごい。人殺し、怨念、復讐、欺き、裏切りのような毒は物語を面白くするワサビのようなものなのであろう。毒で話をくくれば、毒が読者の体内に毒々しく入る。真似る価値のある終わり方だ。
草田のセリフ「大佐が楽しみながら、手づから念入りに殺したのは580人にすぎなかった。しかも君、それがみんな女だよ」は読者(特に男性)の想像力をかきたてる文であるが、580という数字をきちんと覚えている方が頭がおかしいのであって、これも現実味がない。
明と暗の切り替わりをうまく使っている。明では「子供たちが(略)シャツのはみだした小さなズボンのお尻を並べている」や「この洗いたての白さは妙にエロティックだね」など。暗は後半で牡丹の描写場面に現れている。例えば「重たい影を落とし」「孤独に見え」「沈鬱に感じられた」「気味の悪い生々しさ」などで、うまく最後の毒へ持っていく伏線としてある。