近藤虎雄の秘密を読者に隠しておいて、話の最後に暴露し、読者のテンションを一気に落とすが、治子の言葉「電報なんてあてになりませんわ。きっとあの電報は、生きている玄武が打たせたんです」で、読者の不安を以前以上に煽るという展開はうまい。
視点にかんしては、導入部から次第に近藤家の内部に入り込み、5人の登場人物の性格を食卓の会話でうまく描写している。最初の部分にある「金属的な神経質な響き帯びて、わざと陽気にしている…」のセリフで読者は釣り上げられる。また八重の言葉「警察に洗いざらひ話せばどんなに虎雄さんの恥になるかも知れないし」によって読者は謎に入り込む。計算づくの展開だ。
しかし、よく考えると、話が現実味を欠いている。こんなことはありえないが、文章のうまさと展開の妙で読者はまんまと引っかかってしまう。実際、これは変な話だ。だいたい玄武は近藤の家を知っていて、8年間も殺しに来ないということはありえない。山口清一の目を盗んで真夜中とかにいくらでも近藤家に来ることはできるからだ。
だから、冷静に考えれば、失敗作だ。
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