2023年1月29日日曜日

私が愛したサムライの娘  鳴神響一

 第6回角川春樹小説賞を受賞作であるので読んだ。面白くない。

大風呂敷を広げたが、後は尻つぼみの作品。江戸幕府がフィリピンやインドネシアを支配下に置くという広大な計画を尾張の宗春が妨害する。左内は宗春の命を受けて江戸幕府を倒そうとスペイン船を頼むが、宗春が失脚し、幕府転覆の陰謀は頓挫する。

左内の指図で忍者の雪野は出島の医師ラファエル(スペイン人、自称サムライ)に仕えるが、最後は医師と阿蘭陀に向かう。

話がバラバラで視点がくるくる変わり、読みづらい。主人公は医師か左内か雪野か。本のタイトルはもともと「蜃気楼の如く」であったのが、「私が愛したサムライの娘」に代わった。蜃気楼の如く全てが水泡に帰したからタイトルとしてはこちらの方がいい。

忍者対忍者の対決描写は巧いが、またスケール大きさは素晴らしいが、後が続かない。小説としての一貫性がない。なぜ「角川春樹小説賞」を受賞したのか分からない。



2023年1月14日土曜日

お師匠さま、整いました!  泉ゆたか

 小説現代長編新人賞受賞作品であるので読んだ。応募総数1036編から選ばれた。何故これが新人賞に選ばれたのか分からない。恐らく難解な算術を教える師匠と弟子の関係、最後に寺に奉納する難解な幾何の問題とその回答方法が他にはない独自性があるからだろう。ただ、江戸時代にしては言葉遣いが現代的であり、使われている用語が明治時代以降の言葉であるのが多い。文章も稚拙で改善できるところが多々ある。

何故選ばれたか、2016年の新人賞の選考理由を読んでみたい。