久しぶりに、いい話を読んだ。
小原鉄心の伝記小説を書くため史料を漁っていたら『花筵』が大垣藩のお家騒動について書かれいると知った。早速図書館で借り、一気に読んだ。周五郎の小説はU-tubeで色々聞いて、感動を与える小説だと思っていたが、だいたいが50分内外で終わる小説であった。
『花筵』は長編である。
詠んでいるうちに、周五郎の文章が巧みなのに、今更ながら驚いた。知らない言葉が随所に出て来る。長編小説全集なので、各ページに註釈が付けてある。江戸時代の用語が多く、歴史物を書いている身としては、その用語の豊富で正確なことに驚いた。まだまだ、小生は駆け出しだと思った。
文章が流れるように展開し、何処も引っかかるところがない。作家はこうでなくてはならないと思った。会話も地の分も申し分ない。
また、主人公、お市の心理描写も巧く、手に取るように描いてある。見習わねばならぬ。
次に、感服するのは、読者をどこまでも牽引していく技である。死んだと思っていた夫が、お裁きの奉行で、お市の孝行を褒める場面は見事だ。それも、土壇場で生きていたことを読者に知らせる。心憎いほどのテクニックだ。
話しの核心は夫・陸田信蔵が何故襲われたのかであるが、最後のページまではっきりわからない。これが牽引の役、をしている。
それまでに、お市娘の赤子・信をなくし、洪水に遭い、半病人になり、これ以上のネガティブなことはない処まで落とし、最後はぐんと引き上げる手法は、これも心憎い。
大垣、烏江、杭瀬川、牧田川、養老郡、高須など地図入りでよく分かるように作ってある。
ただし、『花筵』は、史実に反している。氏英の後継者選びのお家騒動の話はフィクションで、小説の舞台になる前に、後継者は氏教に既に決まっていたからである。
歴史物を扱う場合、史実に反しても良いのだ。
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