2026年10月11日日曜日

天平の甍  井上靖

 『唐大和上東征伝』と『鑑真大和上傳之研究』と『続日本書紀』を基にこの小説を書いたらしい。四人の留学生を中心に話は展開する。

天平五年(733)日本人の留学生が唐に渡り、鑑真和上を奈良に招く話。鑑真は6度目の渡航で、やっと日本に辿り着いたが、10年かかった。最後は老齢と疲れで失明してまでも渡来を果たした。

その航海の困難さは沈没、難破、座礁などで、島々に停泊して数カ月を要している。命懸けである。蘇州に到着するのは稀で、安南(ベトナム)まで押し流されることもあった。帰路も同じ困難があった。

普照が主人公で、彼の心理描写が巧みに描かれている。共に唐に渡った栄叡や戒融、業行らの中で、最も印象に残ったのは業行である。

彼は唐にいる10年にわたり仏典を写経し続け、何百冊の写経本を仕上げて、帰路に就く。遣唐使船は四隻あるが、帰路とき第一船に写経と共に乗込む。寡黙で、写経本が日本に着けば、「本は独り歩きをして、日本の仏教を根底から変える」という理想を持っていた。

鑑真や普照が乗ってい第二船や、第三船、第四船が薩摩半島に着いたが、第一船は沈没した。

10年の歳月を懸けて、一刻も休まず書写し続けた業行の努力が一瞬にして海に沈み、水の泡となる。

船が沈み、写経本が海に投げ出される時、業行は何と思ったか、気が狂ったのではないかと共感した。


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