2025年9月17日水曜日

商う商人 江戸商人・杉本茂十郎  永井紗耶子

 「木挽町の仇討ち」が、読み応えのある小説であったため、同じ作家の「商う商人・杉本茂十郎」を読んだ。これも良くできた小説である。

江戸の商人の問屋仲間と株仲買人と菱垣廻船を統括し、江戸の町民のため尽力した杉本茂十郎の物語である。

「毛充狼(もうじゅうろう)の渾名を持つ茂十郎がいかに気風がよく、度胸が据わっており、大物商人であるかを読者に巧みに伝えている。シャーロックホームズのワトソン宜しく、茂十郎の人となりを、堤弥三郎が語り手となり、その活躍ぶりを微細に語って行く。

茂十郎が死んで20年後に老中水野忠邦に語るという手法を上手く用いている。

永井さんの小説は無駄がなく、どの文章も無理なく読んで行ける。展開も無理がかない。頭に入りやすくしてある。作家はこういう文を書かなければいけない。

巻末に参考文献として25冊ほどの文献リストがある。そこからこのような作品を生み出す手腕は大したものだ。

2025年8月11日月曜日

木挽町のあだ討ち 永井紗耶子

 話の造りが上手い。結末を先に考え、後から前の章立てを考えたよう。五章それぞれの語り口が、その人物になり切って、流れるように喋る。文章が上手い。次が読みたくなる。終章で、総一郎が登場するが、面食らった。

偽物の首を本物と入れ替えるが、早々と察しがついた。その通りの結末になっていた。

女性作家であるからか、水も漏らさぬように、全ての漏れ口を塞ぐように話を展開させている。執筆中、ありとあらゆる可能性を考え、対策を文字にしたのだろう。

偽の首が小説のように上手く入れ替わるか、見破られないか、と思ったが、著者は用意周到に丁寧に穴を塞いでいた。あそこまで書かれれば、まあOKという事だろう。

話しの構成、落ち、我天下一品。推理小説でもない、読者を嵌めこむのに長けた小説。上手くできていた。小道具や、殺陣師、瓦版屋など、それぞれの職業を上手く使った。木挽きとは首を切り取ることに掛けて題名にしたか。

2025年7月31日木曜日

天涯の海    車浮代

 半田市のミツカン酢がどのように創業されたかが、史実を元にフィクションを交えて書かれている。

著者は膨大な史料を元に月刊誌「パンプキン」に二年間にわたり連載した小説である。

中野又左衛門三代を章ごとに纏めて描いた。酒粕から酢を独立させ、江戸で販路を広げ、次第に繁盛していく様子が描かれている。史料を相当読み込んだと思われる。

家系の繋がりが、ややこしくて、そちらに重点が置かれている場面も多、退屈で退屈であった。むしろ、そこは簡略にして、如何に酢を売れるようにしたかを書いて欲しかった。書いてはあるのだが、説明が多く、目に見える描写が少ないページが多かった。Don't talk but show.

荒筋で話が進んで行くのが多かった。しかし、描写を詳しく描くと、ページが多くなり、妥協するしかないか。

世代が変わってもなお今日まで続く基礎を作った創業者たちの苦労が分かった。

私の実家、大垣の味噌溜屋「小橋口清水屋」で、ミツカン酢を売っていた。こんな歴史があるとは知らなかった。

早亭北寿(北斎の門人)の弁財船の表紙がいい。

2025年7月19日土曜日

まいまいつぶろ  村木嵐

 家重の言葉が不明瞭のように、この本の正体が不明瞭。

まず、主人公が誰か分からない(感情移入ができない)。主人公は、家重か、越前守か、意次か、お幸か、忠光か。

次に、時代考証が欠落。例えば、比宮が没してからもお幸は尼にもならず、京にも帰らない。三年後に家重の側室になる。これはあり得ないだろう。また、家重が自分のことを「私」と言っている。『日本国語大辞典』よれば、「私」は、「近世においては、女性が多く用い、ことに武家階級の男性は用いなかった」とある。さらに、「家重が将軍を宣下した」は「宣下」の誤用法である。

第三に、話しの辻褄が合わなくない。例えば、家重が「忠光を遠ざけるくらいなら、私は将軍を……」と言うのを、10歳の家治が「忠光を遠ざけよう。権臣にするくらいなら。私は将軍ゆえ」と解釈するが、忠光の言葉と家治の言葉が合致していない。

第四、平田靱負の自刃に触れる場面があるが、幕府の重役は靱負の苦悩を表面的にしか描いていない。

最後に、致命的な欠陥。読者は忠光の心が、どのようであったか知りたいのに、忠光の心理描写が欠落。忠光は通訳しながら、どのように考えていたのか、一言も触れていない。忠光の心の葛藤が知りたい。表面で、なぞってあるだけで、これも「ないないつぶろ」であった。


発音


"わたし【私】", 日本国語大辞典, JapanKnowledge, https://japanknowledge.com , (参照 2025-07-19)


2025年7月9日水曜日

Snow, Blood, Love by Ami Cameron, published 2018

 This is an excellent short story. The setting is good. An unexpected ending is good. Grandma's love warms your heart.

Because Jessica's grandma's house is decorated with does, the protagonist, Jessica, is familiar with guns. That's why Merideth's husband is shot to death. Grandma tells Jessica to let it go that she doesn't have anything to so with the murder. In the end Grandma reveals her crime to police by way of a letter.  Her crime has been carried to another world. "Good riddance" was the words Jessica's relatives say. So, nobody was responsible for his death. Jessica will have to carry the secret to her death. Grandmother's love for her daughter was so great that she killed her husband. 

The dream scene is too vivid. A dream is vague and normally vague, but this story depcts Jessica's dream vividly and clearly. That is against reality.

In the end, Meredith had something to do with the murder. That was a surprise. 

Logical and natual develoment of the story. Well written. 

The writer says, "Being authentic and real is important to me. Being fake just isn't an option." Her description of Jessica's dream is unreal.


2025年6月11日水曜日

カエサルを撃て  佐藤賢一

 前にも読んだが、余りにも汚い言葉遣いと女を雌として扱っているのに、反吐が出て途中で止めた。

今回も同じ印象を持った。馬鹿とか男の印とか女を売女にしていた。10ページに一回は女の体の描写がある。著者は女に飢えているかと思うほどだ。

カエサルの描写も中年男の禿げ男とか描写が汚い。ヴェルチンの描写も汚い。

見どころは、アレシアの戦いで、その描写は克明である。櫓の数、塀の高さ(3.6m)内周と外周。調べればわかるが。描写不足は、30万の救援隊が何故、途中から諦めて引き返したかだ。次に一般市民を城から出す場面が、簡単すぎる描写だ。いろいろ籠城内で議論があったはずだ。

主人公がヴェルチンゲトリックスとカエサルになって、章が変わるごとに主人公が入れ替わるのは分かる。しかし、最後のページは、カエサルがルビコン川を渡る「賽を投げる」場面で終わっている。ヴェルチンゲトリックスは、どうなったのか。処刑まで描いてない。

描き方がえげつない。

2025年5月28日水曜日

A Tiger Comes to Town by R. K. Barayan, publised 1983

 This is a humorous story. The narrator is a tiger, who escapes from a circus and enters a school, to the enjoyment of the students. People, whom the tiger had been afraid of, looked so terrified, and ran away from the tiger. The tiger thinks that humans are not scary. They are weak, coward, and foolish. Actually, they cannot communicate well with each other with so many different languages. They are bound with unnecessary laws. Barayan insinuates that humans are foolish.