2010年2月24日水曜日

三島由紀夫 「魔法瓶」

 天下の文才三島由紀夫にして、このような読者泣かせの文を書くことが分からない。最後の部分で、なぜ川瀬の細君は魔法瓶を割ったのか。  「すると今まで皿を洗っていた細君の腕がはたと動きをやめて、ステインレスの流しのふちにその腕がかかって、そこを強く押しているような気配が感じられ」、また細君の「背が小刻みに揺れて」いたのか。「何を泣くんだ」と川瀬が細君に聞くが、この作品は、なぜ細君が泣いているのかが明確に描かれていない。朝日文化センターの「短編を読む・書く」の講座の出席者約12名、誰も明確な答えが出せなかった。ある人は小宮が割ったのだと言ったが、それにしても泣くわけが分からない。私は滋が小宮の子であることをここで細君は告白したのだろうと思った。泣くからにはそれ相応の理由がある訳だが、小宮の子と告白する場合なら恐らく背中は小刻みに震えるし泣くこともあろう。しかしこれも変だ。何も魔法瓶を割る必要はない。  「最後の結末を色々解釈できる短編は良い作品だ」と言う文芸家がいるが、果たしてそうだろうか。三島はわざと読者を煙に巻いたのではないか。結末の持っていき方に窮したのではないか。いかにももったいぶった、また読者を愚弄した結末になっている。  このブログをお読みの方、なぜ細君は泣いたのでしょう。 「魔法瓶」再考 最初、魔法瓶の音を恐れる子を小馬鹿にしているが、最後で「魔法瓶」を不倫の象徴として川瀬自身が恐れるという構図になっている、という考え方の人もあり。一理あり。ただ最後まで誰がなぜ割ったかは分からない。

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