2010年5月4日火曜日

山崎豊子 「女系家族」 

 スリーラ―小説のどんでん返しに匹敵する結末に圧倒される。文乃が生んだ男子が嫡出子の相続の2分の1で6千5百万円相当であること、三姉妹が狙っていた山林の分配は振り出しに戻ること、赤ん坊が成人した場合は矢島商店の共同経営者になること、宇市の化けの皮を剥がす財産目録など、読者をとことん楽しませ読者の溜飲を下げさせる。特に最後の場面で、文乃が親族会に乗込んでくるページから最後のページまでの展開は息をつかせぬドンデン返し。その最たるものは墓場に眠る嘉蔵の嗤いだ。山崎豊子の小説作りの巧さに改めて驚嘆する。  3姉妹(藤代、千寿、雛子)と叔母、宇市、良吉などの言動が、皆それぞれにぶれがなく個性的に描かれている。なんといっても圧巻は三姉妹、宇市、叔母の相続をめぐる権謀術数の数々と登場人物の心理描写の巧みさだ。情景描写も実に鮮やかな筆致だ。  また、遺産相続に関して、山崎は相続法に関する法律や判例集を読み、文芸春秋社の法律顧問の講義を定期的に受けており、持ち前の資料取材とそれを消化し小説に生かす小説作りの手法はここでも徹底している。感服するのは相続財産に山林が含まれていることだ。山守の太郎吉や、藤代の舞踊の師匠の芳三郎を登場させ、山の財産管理についての専門的知識を縦横に駆使して物語を一般読者に分かるように展開している。  さらに、登場人物が全て大阪弁を話すのは作品に独特の味をつけている。味付けと言えば三姉妹の着物、履物、帯、足袋、持ち物に至る細かい描写や、料理の品目の詳細な記述は一つの雅的豪華さを出している。 山崎豊子の「白い巨塔」「不毛地帯」「沈まぬ太陽」「大地の子」に共通するものは社会悪の暴露であるが、「女系家族」は人間の貪欲悪の醜さを描ききった作品だ。 (1963年 文藝春秋新社)

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