2010年5月24日月曜日

阿刀田高 「紅の火」

 最後に落ち(夫に裏切られた奥様が、実は美佐子の母親だった)が来ると思って読んでいたら、そうでもなかった。  もう一度読み直して味わいのある短編だと分かった。ママの知っている若い奥様が、夫に浮気をされ、浮気相手の女を猛烈に愛している告白文を偶然読んでしまう。”それにひきかえ妻は何と醜いのだろう” と言うくだりを読んで、怨念に化身する。鏡の前で唇に口紅を気が狂ったように塗りたくり、唇は「さらに赤く、さらに大きくなった」。「口裂け女」から始まるこの短編はここでクライマックスに達する。  話が多重構造になっている。美佐子の母のこと、美佐子のこと、ママのこと、ママの知っている奥様のこと。これらが間接的にかかわりあう。別々の女性の心理を総合的に捉える読み方をすると味が出る短編。  気になる点。いつも「もの静かに」「寡黙な酒を飲む」常連客が、「ところがドッコイ、男のほうが思ったよりわるい奴で」と言う饒舌な受け答えをするだろうか。   テクニック1.  通常改行しない文をどんどん改行している。美佐子の少女時代の生活を箇条書き風に描いている。告白文を読む場面も改行が多い。読者が読みやすいようにという効果を狙ったのか。 テクニック2.  ママの話が、途中から劇中劇のように、客とのやり取りから、語りに変わる。

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