2015年1月7日水曜日

大力 太宰治


大力

この話は井原西鶴の『本朝20不孝』の「無用の力自慢」を種本としています。原作(現代語訳)を読んでみてがっかりしました。「大力」のあらすじと原作とほとんど変わらないのです。

原作は次のような話です。

丸亀屋才兵衛なる怪力男が相撲好きで、父親が相撲をやめるように言っても相撲をやめない。母親も「島原へ行って千両や2千両遣ったところで減るものではない。相撲をやめて存分に色遊びをしたらどうか」と勧めても、相撲をやめない。ついに女房を持たせるのだが、才兵衛は「摩利支天に誓って女は嫌いじゃ」と言って女房を避ける。ところが夜宮相撲で、相撲取りに投げ飛ばされて肋骨を折って床に伏し、両親に足をさすらせ、親の罰当たりとして名乗りを上げることになった。以上が原作です。

原作と「大力」の違いは主に2つあります。一つ目は、「大力」では才兵衛が幼少の頃、いかに怪力であったかが描かれていること。二つ目は、相撲の師匠の鰐口が「おい、おれだ、おれだよ」と言って隙を作らせ、投げ飛ばすという点です。太宰が「無用の力自慢」を改作した箇所は、突き詰めて言えばこの点だけです。もっとも父親が楊弓、香、蹴鞠、狂言などを勧めますが、これも原作に「琴、碁、書画、茶の湯、蹴鞠、楊弓、謡曲などの慰みもの」が出てきます。鰐口の取り組み方はユーモアがあって面白いのですが、誰しも考えそうな勝ち方で、太宰独特の勝ち方ではなく、目新しいものではありません。

種本を改作して新しい作品を創作するのは面白いのですが、太宰の「大力」は余りにも原作と似ていて興ざめしました。 

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