2020年6月26日金曜日

柘榴坂の仇討 浅田次郎


 井伊直弼の暗殺を素材にした短編。巧くできている。
明治の世になり、敵討ちはご法度となった時代に、直弼の駕籠かき役であった志村金吾が、今では車屋になった水戸の浪士、佐橋十兵衛と会い、殿の敵討ちをするかに見える場面を描く。
以下、うまくできている点いくつか。

1.佐橋が直弼の直の一字を取って、「直吉」に名前を改めていること
2.脇差で決闘をしようとしたこと
3.金吾の敵討ちをせんとする心情
4.共に相手の心が分かり、水に流すこと
5.直弼が「命を懸ける者の命を粗末にしてはならぬ」と言う言葉を守ること

牽引力があり、最後はどうなるかと思わせる筆致である。
秀逸。
歴史的重大事件の陰に翳って見えなくなっている人物にスポットライトを当てて見事に生々しく描いた。

0 件のコメント:

コメントを投稿