著者が言うように、この小説は「菅浦文書」中の「菅浦惣庄合戦注記」を下敷きにした物語であるが、歴史的資料を基にこのように創作力を駆使して読者をぐいぐい引っ張っていく手腕は大したものだ。
登場人物の源太は、成人して源左衛門という極悪代官となり、それを打ち取る若衆の指揮を執る右近は、実は源左衛門の父であるという設定はうまくできている。特に最後のところで、月の浦と高浦の若衆が源左衛門を打ち取るくだりは、ドキドキハラハラで、源左衛門は不死身に見えたがついには矢を射ぬかれる。剣劇の描写が具体的で、単に「白兵戦になった」でなく、どう刀が、どう弓矢が、どうチャンバラがなされたが詳しく描かれていて剣劇を見ているような語り口だ。
公事(裁判)に至るまでの過程、裁定が出るまでの過程、比叡山和尚や管領を巻き込んで公事の背景をよく調べてある。
章が変わるごとに情景描写を入れて読者を休憩させ、屋敷の造り、登場人物の着物(大紋と小袖とか袴)、当時の家屋や屋敷の構造(冠門とか板葺きの白壁とか)をよく調べて描いている。
松本清張賞を受賞するわけだ。