2020年11月27日金曜日

月の浦惣庄公事置書 岩井三四二

著者が言うように、この小説は「菅浦文書」中の「菅浦惣庄合戦注記」を下敷きにした物語であるが、歴史的資料を基にこのように創作力を駆使して読者をぐいぐい引っ張っていく手腕は大したものだ。

登場人物の源太は、成人して源左衛門という極悪代官となり、それを打ち取る若衆の指揮を執る右近は、実は源左衛門の父であるという設定はうまくできている。特に最後のところで、月の浦と高浦の若衆が源左衛門を打ち取るくだりは、ドキドキハラハラで、源左衛門は不死身に見えたがついには矢を射ぬかれる。剣劇の描写が具体的で、単に「白兵戦になった」でなく、どう刀が、どう弓矢が、どうチャンバラがなされたが詳しく描かれていて剣劇を見ているような語り口だ。

公事(裁判)に至るまでの過程、裁定が出るまでの過程、比叡山和尚や管領を巻き込んで公事の背景をよく調べてある。

章が変わるごとに情景描写を入れて読者を休憩させ、屋敷の造り、登場人物の着物(大紋と小袖とか袴)、当時の家屋や屋敷の構造(冠門とか板葺きの白壁とか)をよく調べて描いている。

松本清張賞を受賞するわけだ。

2020年11月25日水曜日

The Hitch-Hikers by Eudora Welty

This is a difficult story because there are a lot of sentences which have deep psychological meaning.

The protagonist, Harris, picks up two hitch-hikers. While he is away from his car, one of them, a guitar player, is killed by the other named Sobby. Sobby says, “It’s his [guitarist] notion to run off with the car.”

Both men are lonely; the guitarist is talkative and the other is silent, who confesses, “He was uppity, though. He bragged. He carried a guitar around.”

That seems to be the reason he kills him.

Harris identifies himself with them; he was also alienated with the town’s people. He does not belong to their community. He has no particular destination to go to.

This is not a moving story, but a kind of sad one. It depicts loneliness of a man.


2020年11月12日木曜日

風神と雷神 原田マハ

 奇想天外な話を上下二巻の物語にした。発想の奇抜さに脱帽。

しかし、内容がお粗末で、全編、著者の頭の中で想像したことをそのまま書き付けたような文章と展開で、嘘話の羅列で、リアリティーがない。

ローマ法王との謁見もあっけなく終わる。著者は読者を感動させようとしてか、登場人物が涙を流す場面を多用している。全然感動しないのに、白けてしまう。航海中も過去を振り返るエピソードが多く、何度も繰り返されるから飽きる。登場人物がよく病気になる。神父、派遣される少年、はたまた、主人公の俵屋宗達も病気になる。そうでもしなければ、話が続かないないのか。

渡航先での行事も空想の域を出ないで、教会とか晩餐会とか舞踏会とか貴族とかの謁見とか、ありきたりのことが書かれ、宗達が信者でないことのひがみとか、ラテン語やイタリア語の勉強とかが書かれ、その現地の色合いが出ていない。読者を引っ張っていく力がない。

宣伝帯に書いてある「俵屋宗達VSカラヴァッジョ」の対面も喧嘩から始まり、カラバッジョの生い立ちが作り話で語られ「最後の晩餐」の絵の前で会うとかがあり、ありきたりのエピソードで、特に、絵師X絵師の感動的出会いではない。読者を馬鹿にしている。

話の根幹に無理があるため、無理やりこじつけて書いたように思える。とにかく水増しして、水で薄めたような話だ。

上下二巻の長編で、時間をかけて読んだが、裏切られたようで、つまらなかった。


2020年11月8日日曜日

銀漢の賦 葉室麟

登場人物が30人以上で、話が展開していく。主人公は松浦将監(小弥太)と日下部源五。二人の少年時代から老いるまでの友情を克明に描いている。

テーマが分かりにくい。将監は元家老の九鬼夕斎を、父と母の仇として討ち取る話だと思ったが、仇討ちを果たした後も話が延々んと続く。

将監と源五の心の内が丁寧に描かれている。どちらかの視点に絞らず、二本立てで突き進む。こういう手法もあるのか。

剣劇の場面が豊富にあるが、神道流剣術を30年ほどやっている私としては、分りにくい描写があった。

もう一度読む気はしないが、もし読むなら人物相関図をきちんと書いて読まないと、誰が誰だかか分かりにくくなる。

情景描写の筆使いはいまいち。

エピソードが入り組み過ぎで話が分かりにくい。これぐらいややこしい話を書かなくては、松本清張賞は取れないのか?