2015年11月22日日曜日

湖畔 久生十蘭

話の展開が巧くできている。二転三転する。話が出来過ぎで現実感がない。

疑問点 納得できない点
1. 陶が少女時代ボートを乗り付けて「お乗りになりませんか」
2. 奥平は自分と高木をすり替え、自分を自殺にみせようとするが果たしてそううまくいくか。高木と奥平は違う
3. 奥平の子(2歳)に「7年間の失踪期間を待たずに」とあるが自殺に見せかけたのではないか

描写の巧さ 溺死した陶の犬歯にある孔を見て陶のしたいと確信してからの心理描写。 読後感、読んでよかった、心を打ったという感慨がない。エンタメとしては良い。

母子像 久生十蘭

少年の母を極端に美化する心と母を豚以下の畜生とみなすギャップにより死を選ぶ太郎を描いた

時系列と人物が分かりにくい。 回想が入り込んできてどこが現在でどこが過去かわかりづらい。 担任教師がヨハネというあだ名の教師なのかもわかりづらい。 ベッドの下に潜り込んだ時の言葉「あれをするとき」とあるが「あれ」を知っていたとは思われない。 この短編は設定と技巧が出来すぎ。そのため極端な設定がある

設定
1.母子像というタイトル。母の崇高な美しさ
2.「母の顔を見てこの世にこんな美しい人がいるものだろうかと考えた。この人に愛されたい、好かれたい、嫌われたくない」という思い セックスの現場を見て「汚い、汚すぎる、人間というものは、あれをするとき、あんな声を出すものだろうか」豚以下だ。
3.太郎は子供時代宣教師に預けられた
4.担任が聖ジョセフ中学のヨセフと言うあだ名の担任。
 

2015年11月12日木曜日

WHY I LIVE AT THE P.O. Eudora Welty

Very amusing and entertaining. The relation between Sister and Stella-Rondo is well described through their ironical conversations. Also, how Papa-Daddy and Uncle-Rondo and Mama come to be against Sister (due to Stella-Rondo’s cunning lies) is well described. The reader turns the pages to know how the quarrels in the family ends. Now I understand why Sister lives in the P.O. However, the bad relation lasted only “five solid days and nights.” Isn’t it too short after such a fierce battle? After all, they are not serious at all.

夜の樹 トルーマン カポーティ

 ケイが次第に女と見世物男に追い詰められていく心理描写がいい。情景描写でもいい。特に「車内の電灯が消えた。暗闇の中で…黒ー黄色ー黒ー黄色ー黒ー黄色とまたたいた」は秀逸。

 翻訳の最後の部分に問題あり。 「ケイが見つめていると、男の顔は形を変えていき、月の形をした石が水面下を滑り落ちていくように、彼女から遠ざかっていくように見えた。暖かいけだるさが彼女をリラックスさせた。女がバッグを取り、レインコートを彼女の頭に経帷子のようにそっとかけたのに彼女はぼんやり気づいた。」 最後の「ぼんやり気づいた」は何に気づいたのか不明瞭。 レインコートをケイが自分で被ったのか女が被せたのか。原文ではどうなのか。

神伝魚心流開祖 坂口安吾

真面目に読むと矛盾だらけでバカバカしい話。肩肘ばらずに軽く寝転がって読む分にはまあ面白いと言えば面白い。 「落語教祖列伝」で一応落語ではあるが、落語特有の落ちがない。

2015年10月11日日曜日

瓶詰の地獄 夢野久作

 三通の手紙によって、状況を読者に知らせる手法はよくできている。出だしの難解な公文書が重みを持って信憑性があるようなしかけにしてある。  手紙を照らし合わせると、親近相姦で兄と妹が命を捨てることが分かり、面白いのだが、この話の、真骨頂は話の内容でなく、そのトリック(からくり)の巧みさである。兄の切実な思いは押し付けがましく読者に迫るが、読者は兄に感情移入できない。それは、手紙が、親近相姦した結果だけを書いているから、兄のその時の心理を読者は間接的にしか想像できない。奇を衒った短編で、残心は残らない。

押絵と旅する男 江戸川乱歩

素晴らしい短編
1. 蜃気楼とか双眼鏡とか夢とか幻とか狂気とかで、読者をその不思議な世界に導入する。
2. 次々に奇妙な事が起こるが、奇妙なことはこの事ではないと言って、さらに読者を引っ張っていいく 3. 奇想天外な話がリアリティを持っている。いわゆるmagical realityの手法が駆使されていて、realityがある 4. 単に双眼鏡を逆さにして兄が小さくなり、押絵に入りお七と睦まじくなるということに留まらず、兄は年を取っていきお七は年を取らないという仕掛けになっている。
5. 旅人の語り口調がごく自然で、なんの抵抗もなく、聞いていることができる。「私」に語っていることが、すなわち「読者」に語っている。
6. 最後に旅人が消える場面もいい