2014年11月20日木曜日

屋根裏の散歩者 江戸川乱歩


よくできた推理小説。三郎が遠藤を殺害するに至る過程は手に取るように無理なく描かれている。伏線の張り方、殺害状況、心理描写も巧み。明智小五郎の推理、ボタンの使い方、天井から逆に三郎を観察するという手法も見事。

引っかかるところ。

. 三郎が犯行に至るまでは細かく書かれているのに、明智の謎解きは余りにもはしょっていて、丁寧ではない。

2.明智は、どのようにして犯人の通路が天井だとわかったのかが説明不足。

3.下宿人は三郎の他に何人もいるのに、なぜ明智は三郎が犯人だとわかったのか。三郎が煙草をやめたことと、毒薬が煙草入れに流れていたことの関連で、犯人が三郎だとわかるのだろうか。

4.明智が「君のいわゆる『屋根裏の散歩』によって、下宿人の様子を探ることにした」と言っているが、明智はどのようにして『屋根裏の散歩』という表現を知ったのか。三郎は明智に「屋根裏を散歩している」と言ってはいないはずだが。

5.三郎が煙草をやめたのは「毒がこぼれたことまでちゃんと見ていた」ことが心理的に三郎を煙草嫌いにさせたと書いてあるが、そんな深層心理があるのだろうか。それこそ煙に巻かれたみたい。

江戸川乱歩は私の好きな小説家だ。以前、『押絵と旅する男』を読んだが、びっくりするほど見事な短編小説で感服した。美辞麗句を並べない、凝った文ではなく、素直な分かりやすい文体で書かれている。江戸川乱歩の文体を手本にしようと思っている。

0 件のコメント:

コメントを投稿