2022年1月1日土曜日

少年と犬 馳星周

 久しぶりにほろりとさせられる本を読んだ。読者を感動させるものは何か。それは尊いもの、しかも感情移入してしまっているものが消える、または死ぬことである。

「少年と犬」では、多門という犬が、この作品の約300ページで、充分に読者を引き付け、感情移入させるのに成功している。最後の数ページで多門が第二の主人公、5歳ぐらいか、光を地震の災害から守って死ぬ。

光の言葉「あのね、あの時、ぼく、多門の声が聞こえたんだ。だいじょうぶだよ、光、僕はずっと光と一緒にいるからね、だから、なんにも心配することないんだよって」

読者は、ここでほろりとさせられる。

文章が平易で、改行がやたら多い。その分、空白が多く、読み易くしている。難しいこった表現は皆無。中学生でも充分に楽しめるだろう。

著者は、「少年と犬」を2017年に「オール読物」に載せている。

その他の犬の話「男と犬」「泥棒と犬」「夫婦と犬」「娼婦と犬」「老人と犬」は2018年から2020年にかけて書かれている。ということは、最終章「少年と犬」が、最初に書かれ、あとから、多門が日本各地で違う飼い主に飼われる話が書かれたのだ。

馳氏はそれまでの短篇を巧く一つの物語に仕上げた。

短編の寄せ集めであるので、どの短編も似たり寄ったりの話で、途中でマンネリ化しており、またか、という感があった。一本通ったダイナミックな展開がない。



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