2022年1月12日水曜日

いっぽん桜 山本一力

 口入れ屋井筒屋の頭取番頭を隠退させられた長兵衛が、魚問屋の木村屋の番頭になるが、魚売りの棒手振りの評判が良くない。というのは、長兵衛がすぐに「うち」ではこうしたんだ、と井筒屋のやり方を持ち出すからだ。ところが、水害のあった日、家が水に浸かって難儀しているところへ、木村屋の棒手振りたちに助けられる。木村屋の主人から、「イカはスルメになったんだ」と言われて考え方を変えたばかりのことであった。水の引いた後、井筒屋の手代が「頭取のお宅は無事でしたか」と声をかけるが、長兵衛は「うちの若い衆が助けに来てくれてね」と答える。ここで終わり。最後の一行が効いている。

長兵衛の心理をうまく描写している。特に新番頭に対するいらだち、千束屋から声をかけられたときの浮ついた気持ち、木村屋に下る情けなさなど。

思わぬ展開になるところがいい。落ちもいい。

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