葛飾北斎の娘、お栄こと応為の話。主に渓斎英泉との付き合いと甥の時太郎の悪党ぶりに苦労する話。浮世絵や肉筆画その物についての記述は少ない。あったとしても深みがない。単に絵をどう描こうかその算段についての記述になっている。例えば「三曲合奏図」にしても女に何を着せ、どう配置して、楽器をどう持たせるかを描くときに、絵そのものを筆でなぞっただけ。絵そのものを描く意欲が書き足らない。
「富嶽三十六景」から「吉原格子先之図」まで、章立てのタイトルになっているが、節ではその絵についての記述は余り詳しくない。単に、章立てのタイトル映えを狙ったか。タイトルが大袈裟すぎる。
小布施に行っているのだから、岩松院の「鳳凰図天井画」についての記述が余りにも少ない。
良かった点はお栄の気風の良さ。最終節で老いた自分との対話と、行く末を暗示したところは良い。情景描写(特に江戸時代の事物について詳しく調べてある)と心理描写が巧い。
感動がない。
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