第二回京都文学賞受賞作。感心するのは作者の日本語の堪能さである。初めて日本に来たのは日本語の「あいうえお」の「あ」の字も分からない16歳のとき。受賞したのは37歳だから、20年で日本語で小説を書き、文学賞を受賞するに至った。
小説には余りない二人称小説で話が展開していく。日本語を覚えていくうちに、日本のことや日本文化が次第にわかるようになり、当初の夢(看板や本や掲示の日本語が分かりたい)が実現していく過程が描かれている。中学校の英語の助手になり、決まりきった英語表現を鸚鵡の様に繰り返して発音するのが嫌になり、民間の英語会話教室の先生になる。英語助手時代にそういう助手が集まる飲み屋で憂さ晴らしをするが、そこを避けるようになる。ひょんなことからある大学の教授に遭遇して、法政大学の准教授となる。この経歴を小説にしたから、小説というより、日本語習得格闘記と言っていいい。これが受賞するのは奇異。
著者は2017年、同志社大学大学院文学研究科国文学専攻博士後期修了。並の日本人より日本語語は詳しい。谷崎潤一郎の研究家らしい。
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