2023年4月21日金曜日

イワン・イリイチの死 トルストイ

黒澤明監督の『生きる』は『イワン・イリイチの死』をヒントにして製作されたと知り、さっそく読んだ。

しかし、話の展開が全く違う。『生きる』は主人公が癌による死を宣告され、余す期間を人のために使う話である。しかし、イワン・イリイチの死』は、主人公(上級弁護士)が無難で、品のある、上流階級の生活を送るが、新築の部屋の模様替えを行っていて、腰を打ち、それが元で、体がむしばまれて行く。死が次第に近づき、生きた屍になる。いつ残された時間を人のために使うかと思いながら読んだが、最後まで死と向き合う自分の情けなさを描いて死ぬ。自分のことを誰も分かってくれない。家族、弁護士仲間、妻、娘の嘘の言葉、世の中の欺瞞、神への恨み、治らない病の苦しみが綿々と綴られる。ここには救いはない。

死ぬ間際に「妻や子がかわいそうだ。彼らがつらい目にあわないようにしてやらなくては。彼らをこの苦しみから救えば、自分も苦しみをまぬがれる。『なんと良いことなんだろう、そしてなんと簡単なことだろう』彼は思った」と、悟りを開くが遅かった。

トルストイは死に直面する人間の救いようのない苦しみを克明に描いた。

心理小説と言っても良い。



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