2010年7月11日日曜日

渡辺啓助 「紅耳」

「美しい」耳たぶを小道具としてこんなにまで想像力を駆使して一片の短編に仕上げる筆力に感服した。出だしの「ああ、貴女の耳はなんて美しいんでしょう」と言う、何か翻訳調の言葉に始まって、話がどんどん展開し、こんなことがあり得ないと思いつつも話に引き込まれて結末まで読ませてしまう。最後、屍を見ながら発する言葉、「ああ、沈鶯春の耳」が余韻を残す。  川端康成の「片腕」のように、その部位が生き物のように人間の心を支配すると言う点で似通っている。 渡辺啓助 1901(明治34)-2002 推理作家

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