2010年7月17日土曜日

森鴎外 「舞姫」

斎藤美奈子が「舞姫」の筋書きを次のようにまとめた。 1.地位も名誉も教養もある年長の男(太田豊太郎)が 2.何も持たないうんと年下の女(エリス、十六七歳)を 3.妊娠させて、病(パラノイア)にいたらしめて、捨てて 4.最後に安泰(帰国)を得た  ごくありきたりの男女の話を描いた三文小説。ただ素晴らしいのは擬古文調であること。  豊太郎のエリスを捨てるに至った心の動き(エリスへの愛よりも名誉を求める)を微に入り細に入りくどくど吐露している。吐露の仕方が「嗚呼」と言う調子で、自分はいかに苦しんだかと言うことを面々と訴え、自己弁明をし、自分を正当化し、読者の憐みを買おうとしている。しかし、なんといっても自分の都合でエリスの心を引き裂いたひどい男の話だ。  展開は、まず太田が登場し、5年前のことを思い出すところから始まる。幼少時代の話から、ドイツでエリスに会う場面へと展開していく。結末でエリスは気が狂うが、これが一番読者にインパクトを与える終わり方で、この点では成功している。  ただ、テーマが不明瞭。エリスを捨てた太田の酷さを書いたのか、読者の太田への同情をあおったのか、鴎外のドイツでの経験を書いた手記を披露したのか。(実際、横浜港にエリーズと言うドイツ女性が来たそうだ)恐らく読者を想定した手記だろうが、大げさすぎて、感動も何もない。太田(鴎外)への反感が残るだけだ。女性の読者は太田を憎むことだろう。救いようのない話。後味が悪い。  「雁」という作品も引っかかるものがあった。

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