2011年4月25日月曜日

伊藤桂一 「丘の寺院」「通天門」

「丘の寺院」

戦場のエピソード短編としてうまくまとまっている。中国のある寺院にいた尼僧は実は女工作員であったが、最後になって辰間は助けようとする。

1.出だしが読者を引き付ける。

2.出だしが最後とうまく結び付いている。

3.読者をひっぱていく技巧が凝らしてある

  例:

  ○それを衆目にさらさねばならぬ破目に陥ることになる。

  ○ただ、このとき辰間には重大な誤算があった。

  ○中隊幹部たちには、一つだけ誤算があったのである。

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「通天門」 

これもうまくできた短編。捕虜の章を助け切れずに銃殺してしまう話と、惚れた慰安婦を裏切った慙愧の気持ちを持ち前線へと進む話とうまく融合している。

漢語が多く使われていて文体が重厚。

心理描写がうまい。「無数の男を相手にする混濁した肉の世界の中にも、ひとすじの、――それはこうした肉の最後を賭けている女にとっては、大切な問題だった。

疑問点:著者が主人公の行動理由を推測する文が出てくるが、それはアリか?

彼が章にことさら眼をかけたのは、登秀に対する慙愧の情が、そのつぐないとして、章に向けられたからであろう。

2011年4月13日水曜日

HONOR by Tessa Hadleyo (New Yorker)

  This is a short story about the narrator’s aunt, Andy. She had her son, Charlie, killed by her husband. Andy gets false pregnancy because of the trauma she has undergone.   The writer carefully follows the psychology of Sally (the narrator) from her childhood to adulthood. She is scared that the same thing might happen to her just as Charlie has suffered.
  The illustration of Sally’s psychology is sometimes complicated. The writing style is sometimes so indirect that the reader finds it difficult to understand the story.
  This is a story of balance in human psychology. Andy loses her child but falls pregnant. Her body wants another Charlie to compensate for the loss of her child.

2011年4月10日日曜日

藤沢周平 「朧夜」 『約束」

「朧夜」

 老人佐兵衛は、20歳の飲み屋の女、おとき、に色仕掛けで20両と言う金を巻き上げられるが、半分ボケていて、被害意識がない。
 現代にも通ずる話。周平はおときのあくどさと、佐兵衛の幸せに浸った分をうまくバランスをとっている。ボケていると言う設定が良い。

「約束」

 10歳のおきちが、飲み助の父親と弟と妹を抱え、薬代や借金もままならぬ不幸の中、熊平が死ぬ。これにより読者をどん底に突き落とす。油屋が救いの手を差し出すが、おきちは断る。断り方が子供らしくなく大人は、嫌悪感を感ずるが、おきちが女衒に連れられ、いざ長屋を離れるとき、こらえきれずに、わっと泣き出し、大人たちは救われる。
 二つのコンフリクトが重なっている。一つは境遇的にどん底に突き落とされる。二つ目は気丈夫さで大人の反感を買う。両方のコンフリクトが泣くことによって、昇華されるという、巧い展開になっている。寅さんの山田洋次のように、読者の心が手に取るように分かっている。

2011年4月5日火曜日

山本一力 「いっぽん桜」「萩ゆれて」「そこに、すいかずら」「「芒種のあさがお」

「いっぽん桜」
話の筋立てがいい。話を主人公に絞っているのがいい。井筒屋を退職させられた頭取の長兵衛の心の動きが見事に描かれている。井筒屋を去る心境、千束屋からの話と落胆、木村屋でのギクシャクした帳面つけと、木村屋になじんで行く様子が良く分かる。

「萩ゆれて」
読書のピントをどこに当てていいか、理解に苦しむ。兵庫が木刀で打ち負かされた復讐劇でもない、ロメオとジュリエットの様な恋愛(家というコンフリクトがある)でもない、ただなんとなく漁師の娘と結婚して、母が折れると言う話。ドラマ性がない。

「そこに、すいかずら」
カネに糸目をつけずに“日本一”の雛飾りを作る話。雛飾りは3000両、飾る部屋は40畳もある。話は雛飾りの豪華さをこれでもか、これでもかと読者を唸らせようとしている。話の結末が中途半端。なぜ、母の吉野と、父清兵衛は燃え盛る火の中に飛び込んだのかが、分からない。

「芒種のあさがお」
テーマがはっきりしない。コンフリクトがはっきりしない。(おなつX姑か、おなつX要助か)生まれてから26歳までのドラマが表面的で、深くえぐられていない。通りいっぺんの話。朝顔職人の職人芸を披露していない。