2011年4月25日月曜日

伊藤桂一 「丘の寺院」「通天門」

「丘の寺院」

戦場のエピソード短編としてうまくまとまっている。中国のある寺院にいた尼僧は実は女工作員であったが、最後になって辰間は助けようとする。

1.出だしが読者を引き付ける。

2.出だしが最後とうまく結び付いている。

3.読者をひっぱていく技巧が凝らしてある

  例:

  ○それを衆目にさらさねばならぬ破目に陥ることになる。

  ○ただ、このとき辰間には重大な誤算があった。

  ○中隊幹部たちには、一つだけ誤算があったのである。

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「通天門」 

これもうまくできた短編。捕虜の章を助け切れずに銃殺してしまう話と、惚れた慰安婦を裏切った慙愧の気持ちを持ち前線へと進む話とうまく融合している。

漢語が多く使われていて文体が重厚。

心理描写がうまい。「無数の男を相手にする混濁した肉の世界の中にも、ひとすじの、――それはこうした肉の最後を賭けている女にとっては、大切な問題だった。

疑問点:著者が主人公の行動理由を推測する文が出てくるが、それはアリか?

彼が章にことさら眼をかけたのは、登秀に対する慙愧の情が、そのつぐないとして、章に向けられたからであろう。

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