キャラが立つとは、こういう書き方かと思った。苗子の気持ちが手に取るように、心が痛くなるほど、じんじんと響く。同じように、千重子の心情も良く分かるように書かれている。
話の設定がうまい。双子の一人は山育ちで、もう一人は京都の呉服屋のお嬢さん。その二人が偶然神社で遭遇する。苗子は常に千重子を「お嬢さん」と呼び、大事にしている。千重子は捨子なのだ。そこに織物屋の秀男が登場して「幻」の苗子に結婚を申し込む。なんという奇抜な話の展開。著者は秀男が誰と結婚するかは語らずに話を終えている。あとは読者の想像に任せるというエンディングだ。
秀男が苗子と結婚しても、千重子と結婚しても、いずれにせよ、他方がどう思うかが問題である。千重子と結婚するようなニュアンスで終わっているが、苗子はどう思うだろうか。運命のいたずらにしては大きすぎる。
二株のすみれの花が、二人を象徴しているようで、うまい小道具の使い方である。
ただ、「古都」は半分が京都の寺社、風物、祭り、伝統、それに呉服のことなどの説明が多くて、初めのうちはなかなか話が進展せず、退屈であったが、二人が神社で会ったところから、急に話に弾みがついてpick up momentum、あとはどんどん読み進めた。京都の風物紹介型小説。
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