2020年10月18日日曜日

一朝の夢 梶よう子

宗鑑(実は、井伊直弼)と言う風流人が登場し、朝顔の栽培に没頭する主人公・興三郎と朝顔談議で懇意になる。

里恵や村上やら鈴やなどを登場させ、水戸藩と彦根藩、安政の大獄の時代背景を巧みに取り込んで物語を展開する技は見上げたものだ。里恵や村上が死ぬ辺りから、話はどんどん進展していき、クライマックスに向かって突き進む。最後は直弼の暗殺、その後、興三郎の黄色の大輪の朝顔が咲く。これぞ松本清張賞受賞作品だ。

著者・梶よう子はどのようにしてここまで巧く書けるようになったのか。

情景描写、人物の動き、表情など描写も見事で学ぶところが多い。

2020年10月14日水曜日

The School of Salamanca

 

This is an Italian story.  It is a pure entertainment story. It develops quickly to the end with a lot of fun. The funniest scenes are when the son and his Master change into various things, such as wind, a pigeon, horse, an old man, a conger, an eel, a dove, a falcon, a ring, a cock, a doctor, and a fox. The phrases such as “Conger I am, and a ring will I become,” or “Doctor I am, and a cock will I become” are spells and are used effectively and swiftly enough for the reader to enjoy the changes.

In the end the son (the fox) eats the cock (Master). And the princess and the son marry. Happy end.

 

2020年10月8日木曜日

一枚摺屋 城野隆(じょうのたかし)

 文章がこなれており巧い。会話や情景描写がいい。また、幕末の目まぐるしい世情をうまく背景に取り入れている。魅力ある女を出しつつ、仇の情報を小出しにしていく手腕もいい。ただ、途中で、読むのに飽きてくることがある。同じパターンの繰り返し(記事を書く、ばらまく、追いかけられる、うまく逃げる、記事を書く……)がある。

この小説は彦馬が死んで「ええじゃないか」運動で終わりになるが、エンディングの盛り上がりに欠ける。感動もない。なぜか。それは、文太郎が仇の里村を捕らえるが放免するという場面がすでにあり、話の決着がついてしまっているからだ。読者は、冒頭で文太郎の父親がむごたらしい殺され方をして、その仇を討つという釣りに牽引されてきたが、その釣り糸がここで切れてしまう。残りの部分は単にお涙頂戴の付け足しに過ぎなくなる。


2020年10月3日土曜日

マルガリータ 村木嵐

 松本清張文学賞受賞作だけある。最後の50ページぐらいは、それまでの250ページの集大成としてすべての秘密が解き明かされるように仕掛けてある。珠が何もわからぬ女に描かれているのも意図があってのことだ。

始め150ページぐらいは何永んだか分らぬままただ筋を追って読んでいたが、後半になってうまくまとまっていく。

最後で分かる信長の策略、4人の天正遣欧少年の絆、バテレン禁止令と殉教と棄教などがかなりうまく書けている。

しかし、信長が毒を盛ったとか、千々石ミゲルがローマから、不具者ゆえに司教にさせないという話は作り話だと見え見え、加藤清正が知恵を授けるがその裏の心が描かれていない。伊奈姫がまるで欠点がないような観音様のようで、人間らしくない。天草四郎がミゲルと伊奈姫の子であるというのはでっち上げで、これも余分。

涙を流すという表現が多すぎる。

作り話だなあと言うあと味があり、リアリティがない。