2020年10月8日木曜日

一枚摺屋 城野隆(じょうのたかし)

 文章がこなれており巧い。会話や情景描写がいい。また、幕末の目まぐるしい世情をうまく背景に取り入れている。魅力ある女を出しつつ、仇の情報を小出しにしていく手腕もいい。ただ、途中で、読むのに飽きてくることがある。同じパターンの繰り返し(記事を書く、ばらまく、追いかけられる、うまく逃げる、記事を書く……)がある。

この小説は彦馬が死んで「ええじゃないか」運動で終わりになるが、エンディングの盛り上がりに欠ける。感動もない。なぜか。それは、文太郎が仇の里村を捕らえるが放免するという場面がすでにあり、話の決着がついてしまっているからだ。読者は、冒頭で文太郎の父親がむごたらしい殺され方をして、その仇を討つという釣りに牽引されてきたが、その釣り糸がここで切れてしまう。残りの部分は単にお涙頂戴の付け足しに過ぎなくなる。


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