松本清張賞受賞作品
安禄山が登場する歴史小説と思ったら、そうではない。武侠もの。兄妹が唐の末期にどう生きたかを描いた作品。だから、唐に反旗を翻した安禄山の戦いぶりというより、細々した日常のいざこざ、例えば母との関係、妹(采春)とその許嫁との関係、兄(張永)の人間関係の話など、が中心に話が進められていく。そのため歴史的展開がほとんどない。日常生活の描写が大部分で、面白くない。
疑問点
采春は、許嫁(顔李明)を安禄山が殺したからと言って、安禄山を仇として狙うという話は、構想が大きくて良いが、大きすぎる。
安禄山の行言動が一行も書かれていない。これでは安禄山がどういう人間かが読者に伝わらない。でぶでぶの安禄山が寝ていると場面が突如でてきて、あっけなく殺されてしまう。敵討ちだからもっと力を入れて書くべきだ。
また、いただけないのは仇を討ったのに話が延々と続く。
李明の言葉が疑問だ。
「そもそも人の心は何で動く。(略)わたしは字だと思っている。字はただの容ではなく、言葉も字を口にしただけの単なる音ではない。活きて、人の芯である心を打つ。ゆえに、私は文官になりたい」
上の文で「ゆえに、文官になりたい」と言っているが、字が大事だから文官になりたいというのはどういうことか分からない。「文官」とは大辞泉によれば「軍事以外の行政事務を取り扱う官吏」のことであり、行政職である。字、または言葉、または文章で人を動かしたいのであれば「文筆家になりたい」と続くのが自然である。「字」というのも分かりにくい。
つまらなくて、何度も途中で読むのを辞めようと思った。最後の部分(采春が燕側で、張永が唐側)になり、兄妹が敵対同士で戦う場面になってやっと面白くなってきた。
読者を牽引していくものがない。
もう一度読んでみようか。松本清張賞受賞作だから。
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