「疑惑」の主人公が宿泊した家が大垣町の廓町というところと書いてあって、驚いた。わたしの故郷が大垣市の郭町なのである。
中村玄道が主人公を訪れ、濃尾大震災で妻が壊れた家屋の下敷きになり、救出できないうちに火の手が回り「生きたまま焼かれる」のは残酷と思い、玄道は瓦で妻の頭を殴り殺してしまう。
震災後、殺した真の理由は、妻を憎んでいたことに気がつき、殺しの疑惑に苛まれ、最後は気が狂たようになる。
変な箇所
1.大垣の町の「廓」という漢字が違う。正しくは「郭」
2.玄道の小指がないのはどうしてか、書かれていない。思わせぶりな技巧を凝らしたか。
3.妻・小夜が憎いのは肉体的欠陥があったからの部分で「82行省略」と書いてあるが、これは芥川がわざとそう書いた。読者に推測させるためで、いかにも巧く書かれているように見えるが、芥川は逃げていないか。省略せず、全部書かなければ読者は半殺しになり、不満が残こる。芥川は自分としては、巧い仕掛けと思っているかもしれないが、思わせぶりがこの作品の欠陥にもなっている。
4.職員室で梁に押しつぶされた女が、柱が燃えてきた時、梁が軽くなり柱から脱出できた、と聞いて、玄道は動転する。ここがおかしい。助かったかもしれないという思いに愕然とするが、なぜ愕然とするのか。純粋に「生きたまま焼かれる」のを残酷と思って瓦で殺していれば、助かった話を聞いて、愕然とするが、実際はそうではない。主人公が悩むのは、殺そうと思って殺したのだという思いに苛まれるのであって、「助かった」人がいることを知って悩むのはつじつまが合わない。憎いから殺したのだから、小夜が、助かる助からないは関係がない。純粋に憎くて殺した(「焼かれるよりは」、という思いは偽善である)のだから、疑惑もへった糞もない。
もし放置しておいて小夜が運よく脱出したら、玄道はどう思っただろう。小夜が生きていてよかったと思うか、死ななかったのかと落胆するか。落胆でしかない。
5.最後に人間「明日はまた私と同様な狂人にならないものでもございません」という台詞で終わっているが、これは余分。ダメ押しの押しつけがましい。
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