2023年2月25日土曜日

宝島  Treasure Island by Rober Louis Stevenson

 研究社出版の "Treasure Island"(市川三喜註釈)原文を全ページ書写して読了した。書写を始めたのは2020年11月朔日(most probably)あたりだから、今日2023年2月25日で二年三カ月かかったことになる。

一日の書写の量は半ページほどで、都合で書写できなかった日もあるから245ページの書写に相当時間を使ったことになる。二年も経つと、話の筋や登場人物が誰であったか混乱してきたが、とにかく書写し終えた。

主人公のJim Hawkinsのnarrationで話が展開する。読むのに苦労したのは航海用語と帆船の用語、船員同士のjargon言葉が分からない。市川三喜の注釈は懇切丁寧で例文も付け相当詳しい。(教え子の岩崎民平氏が市川氏の訳読を聞いて下書きを書き、市川氏が直した。ちなみに注釈は113ページに及ぶ)。注釈がない箇所は青空文庫の全訳『宝島』と首っきりで読んでいった。訳者は英文学者、小説家の安部知二(明治36-昭和48)氏。安部氏の全訳はよく出来ており、註釈も素晴らしい。

"Treasure Island"で際立っているのはLong John Silverだ。一本足がいい。船と宝の乗っ取りを企む、一癖も二癖もある船乗り。最後まで読者を魅了する。宝はBen Gunがの隠れ家にあったが、難破したthe HispaniolaにJim, Dr. Livesey, Captain Smollett, Bewon Gunが何日もかけて運び、Bristolの港に着く。宝は読者を満足させるだけの莫大な量がある。

Stevensonは不朽の傑作”The Strange Case of Dr. Jikil and Mr.Hyde”や”A Child’s Garden of Verses"その他を書いている。




2023年1月29日日曜日

私が愛したサムライの娘  鳴神響一

 第6回角川春樹小説賞を受賞作であるので読んだ。面白くない。

大風呂敷を広げたが、後は尻つぼみの作品。江戸幕府がフィリピンやインドネシアを支配下に置くという広大な計画を尾張の宗春が妨害する。左内は宗春の命を受けて江戸幕府を倒そうとスペイン船を頼むが、宗春が失脚し、幕府転覆の陰謀は頓挫する。

左内の指図で忍者の雪野は出島の医師ラファエル(スペイン人、自称サムライ)に仕えるが、最後は医師と阿蘭陀に向かう。

話がバラバラで視点がくるくる変わり、読みづらい。主人公は医師か左内か雪野か。本のタイトルはもともと「蜃気楼の如く」であったのが、「私が愛したサムライの娘」に代わった。蜃気楼の如く全てが水泡に帰したからタイトルとしてはこちらの方がいい。

忍者対忍者の対決描写は巧いが、またスケール大きさは素晴らしいが、後が続かない。小説としての一貫性がない。なぜ「角川春樹小説賞」を受賞したのか分からない。



2023年1月14日土曜日

お師匠さま、整いました!  泉ゆたか

 小説現代長編新人賞受賞作品であるので読んだ。応募総数1036編から選ばれた。何故これが新人賞に選ばれたのか分からない。恐らく難解な算術を教える師匠と弟子の関係、最後に寺に奉納する難解な幾何の問題とその回答方法が他にはない独自性があるからだろう。ただ、江戸時代にしては言葉遣いが現代的であり、使われている用語が明治時代以降の言葉であるのが多い。文章も稚拙で改善できるところが多々ある。

何故選ばれたか、2016年の新人賞の選考理由を読んでみたい。 

2022年12月22日木曜日

Don't Look Now Daphne du Maurier

 I am a fan of Daphne du Maurie. Her books such as "Jamaica Inn" and "Rebecca" are fascinating. Both were made into movies. I saw them. 

Her English is not complicated or not elaborate like Dickens. Simple and easy. The most attractive factor of her story is mystery. "Don' Look Now" makes the reader turn the pages by giving intriguing mysteries one after another.

Mysterious occurences are everywhere: John sees Laura and the myserious sisters on board the boat; the blind sister predicts mysterious consequences; the murder;  and the child (a dwarf).

The ending where John dies is not balanced with the page-turning enthusiasm. However, this is an excellent story. I enjoyed it very much.

鴨川ランナー グレゴリー・ケズナジャット Gregory Khezrnejat

 第二回京都文学賞受賞作。感心するのは作者の日本語の堪能さである。初めて日本に来たのは日本語の「あいうえお」の「あ」の字も分からない16歳のとき。受賞したのは37歳だから、20年で日本語で小説を書き、文学賞を受賞するに至った。

小説には余りない二人称小説で話が展開していく。日本語を覚えていくうちに、日本のことや日本文化が次第にわかるようになり、当初の夢(看板や本や掲示の日本語が分かりたい)が実現していく過程が描かれている。中学校の英語の助手になり、決まりきった英語表現を鸚鵡の様に繰り返して発音するのが嫌になり、民間の英語会話教室の先生になる。英語助手時代にそういう助手が集まる飲み屋で憂さ晴らしをするが、そこを避けるようになる。ひょんなことからある大学の教授に遭遇して、法政大学の准教授となる。この経歴を小説にしたから、小説というより、日本語習得格闘記と言っていいい。これが受賞するのは奇異。

著者は2017年、同志社大学大学院文学研究科国文学専攻博士後期修了。並の日本人より日本語語は詳しい。谷崎潤一郎の研究家らしい。

2022年12月18日日曜日

眩 朝井まかて

葛飾北斎の娘、お栄こと応為の話。主に渓斎英泉との付き合いと甥の時太郎の悪党ぶりに苦労する話。浮世絵や肉筆画その物についての記述は少ない。あったとしても深みがない。単に絵をどう描こうかその算段についての記述になっている。例えば「三曲合奏図」にしても女に何を着せ、どう配置して、楽器をどう持たせるかを描くときに、絵そのものを筆でなぞっただけ。絵そのものを描く意欲が書き足らない。

「富嶽三十六景」から「吉原格子先之図」まで、章立てのタイトルになっているが、節ではその絵についての記述は余り詳しくない。単に、章立てのタイトル映えを狙ったか。タイトルが大袈裟すぎる。

小布施に行っているのだから、岩松院の「鳳凰図天井画」についての記述が余りにも少ない。

良かった点はお栄の気風の良さ。最終節で老いた自分との対話と、行く末を暗示したところは良い。情景描写(特に江戸時代の事物について詳しく調べてある)と心理描写が巧い。

感動がない。

2022年11月27日日曜日

落花狼藉 朝井まかて

吉原を創った甚左衛門の妻・花仍かよが吉原の遊女屋の女将として吉原を築いていく話。

若菜太夫を育て上げ、若菜の赤子を育て、赤子が成長して二代目の女将、鈴になる。花仍は引退して、大女将になり、甚左衛門、使用人清五郎、遣手婆のトラ婆も他界し、吉原は新しい世代と交替する。花仍の曾孫が生まれ、花仍も死んでいく。

花仍の半生を描いた。

江戸幕府との遣り取り、江戸の火災、吉原の引っ越し、歌舞伎者や湯屋との確執、吉原の同業者との駆け引きや、その他もろもろのエピソードを織り交ぜて展開していく。どのように吉原が発展していったか、その影の苦労が分かるように描かれている。

花魁の衣装、客のあしらい方、同衾、遊女屋の中の様子、花魁道中の様、女衒、遊女の親の金の無心。磔、花魁言葉、江戸時代の時代背景など詳しく調べ、作品化している。文章もうまい。

吉原ができていくに従って、花仍が年を取っていく様が描かれている。吉原の完成がこの本の眼目ではなく、花仍がどう生きたかを描くのが眼目。

大きな問題が最後に解決するというドラマでなく、エピソードごとのドラマ形式。

花仍の人生、いろいろあったなぁという印象。寄せ集めのエピソード集で、感動はしなかった。

花魁言葉

そう願いいす。わっちが帰ってくるまで。分りいしたか。禿が「あい」と応える。おおせになりいしたね。届きいすよ。仕方ないことでありいすよ。男でありいしょうか。尋常でありいすね。できいせんか。「ます」が「いす」に替わる。

女衒が連れてきた娘の身形、丈の短い単衣、肘から先や膝下が剥き出し。娘の値段、三両から五両