2012年6月9日土曜日

掌の記憶 高井有一

1981年(昭和56年、戦後36年後)49歳にて執筆
400字詰め原稿用紙36枚

文章の流れがスムースで、読みやすい。変に文学的に凝った文章より素直でよほど良い。自転車通勤の風景から、少年時代の自転車にまつわる思い出にタイムスリップして、3つのエピソード(自転車入手、下校時の空襲、友達の叔母)を紹介し、また時間を現代に戻し小説は終わる。
タイトルの「掌の記憶」がなぜそういうタイトルになっているのかが、小説を読み終わってなるほどとわかるようになっている。そのため、この小説は、「朝いつものように自転車に跨り滑り出そうとするときに、ふと、少年のころの感覚が甦って来る事がある」で始まり、読者に少年のころの感覚とは何かという疑問を抱かせる仕掛けになっており、話が展開していって、エンディングで、「そう相槌を打ちながら、私は、昔の自転車の重い感触が、掌に甦って来るのを感じた」としている。最初と最後がうまく調和しており、サンドイッチ的構成になっている。
終戦の年13歳だったから、「掌の記憶」は少年時代の思い出の記であろう。

高井 有一(たかい ゆういち、1932年生まれ )は、日本の小説家。内向の世代の作家の一人。本名は田口哲郎。日本芸術院会員。1965年芥川賞受賞。谷崎、野間、大佛等の文学賞多数受賞。

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