2012年11月5日月曜日

乳房 伊集院静

 平成3年  特に心理描写や情景描写が上手いわけでもなく、淡々とした語り口で話が展開する。癌を患っている妻に“隠れて”女を買い、自己嫌悪に陥い、最後の部分で全てが収斂される。  「タオルを受け取り洗面所で水道の蛇口をひねると、ふいに涙があふれてきた。自分に対する憤りと、見えない何者かへのどうしようもない怒りがこみ上げて」の感情の吐露で、読者は一気に「私」に感情移入する。  人間の生きるさみしさ、切なさ、温かさをうまく切り取った。

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