2012年11月1日木曜日

頂 もりたなるお

昭和49年 現代小説新人賞

 頂という名前の幕下が、ゴッチャン(八百長)相撲を仕掛けるが、2勝5敗の散々の成績で相撲界から足を洗う。  ゴッチャンの資金稼ぎに年増の色狂い女(薄気味悪い半開きの目、巨大ロールパンの2段腹が餅のように波打つ、でかい口、豚)と寝る。一回2万5千円で17万5千円稼ぐが、対戦相手6人に一人2万円でゴッチャン相撲を持ちかけるが、おっとどっこい、思うようにはことは運ばない。7人目の病身の相手にも負けてしまう。
 7人の取り組み相手との交渉の仕方、取り組み、その後の心の動きが手に取るように描かれている。描写力が素晴らしい。長い文がなく、短い文を畳み掛けるようにして連ねている。
 幕下人生の負け組がさらに負けていく姿を、読者に八百長がうまくいくかどうかという一点でつってつって最後まで引きずり込んでいく手腕はさすが新人賞を取っただけあると思う。ゴッチャンがうまくいって10両になるという結末よりも、最悪の事態になる方が、読者の心を(哀しくも)打つ。

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