2013年12月7日土曜日

岩 北方謙三

 ハードボイルドのエンタメ短編。面白いが、やくざな探偵が堅気の青年に暴力を振るうのはいただけない。後味が悪い。
 北方の文章は分かりやすく、情景が目に浮かぶように描かれている。岩礁を目指して泳ぐ二人の若者を出して、何事かと読者に思わせ、読者を本に引き込んでゆく手法はうまい。時間の経過など、タバコを吸った本数で表す工夫がある。
 岩礁に向かって泳いでいた若者が、偶然目指す店のバーテンだったというのはご都合主義であるが、北方は「滑稽な話の中に、滑稽な偶然をひとつ偶然をひとつ加えたにすぎない」と言い訳をしている。
 最後で、「いつか岩のない海を泳ぐかもしれない」という文は、自分がいつか暴力でやられるということを暗示しているのか。「岩」というタイトルを解説しているのだろうが、エンディングがわかりにくい。

北方謙三(きたかた けんぞう)

1947年佐賀県唐津市生まれ。中央大学法学部在学中の70年に、純文学作品「明るい街へ」で作家デビュー。10年後、「逃がれの街」「弔鐘はるかなり」などで、ハードボイルド(暴力的・反道徳的な内容を、批判を加えず、客観的で簡潔な描写で記述する手法・文体)小説の旗手として一躍人気作家になる。89年からは歴史小説を手掛け、91年「破軍の星」で柴田錬三郎賞を受賞。2006年「水滸伝」で司馬遼太郎賞を受賞。00年より直木賞の選考委員を務める

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