2017年11月12日日曜日

「月澹荘綺譚」 三島由紀夫

 ミステリー短編のお手本。水も漏らさぬ展開と結末。三重のどんでん返し(照茂の死、夫人との夫婦生活はない、目を抉られて茱萸)。読者を話に引きつける仕掛け(異様な物語、悲劇の起こりそうな、どうして一人でここにおいでになったのかわからない)。自作の七言絶句「月澹ク煙沈ミ暑気清シ」の解説を本分で読者サービスでやっている。(月の澹(あわ)い夜のことで、海の上に浮かぶ靄は煙の用だったが、煙は沈んで低く這い、(略)ふしぎな清らかな暑気とでもいうべき……)。描写が巧い。特に照茂が君江が犯されているところを凝視する場面は見事。
 しかし、難点あり。
1.第一章が長すぎて本題になかなか入らない。飽きてしまう。また情景描写は一行一行は巧いが、さてどういう風景かといわれると頭にイメージが浮かばない。三島は自分の風景描写に酔っている。

2.話がきっちりしすぎ、余裕がない。読者に呼吸させない。水墨画の余白がない。

3.誰が家を燃やしたのか、答えを読者に丸投げ。

4.白痴の君江が犯人とすると、白痴にしては仕返しの仕方(目を抉って、茱萸を詰める)が正常な人間がやったよう。犯人は君江でないとすると誰か。夫人がそこまでやるか。勝造がそんな手の込んだことをやるか。君江がやったとしては不合理。 5.知的障害者を話のダシにしている。三島は「健常者」だからといって、弱者をダシにしていいのだろうか。三島の人格が疑われる。

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