2021年10月7日木曜日

喜多川歌麿女絵草紙 藤沢周平

歌麿がどのように美人画を描いたかとか絵を描くときの苦労談は一切なく、もっぱら、美人画のモデルとなった女について書いている。六章あるが、各章ごとに異なる女性を登場させ、その女の美しさに加えて性質、生い立ち、家族などネガティブな面も活写している。女は茶屋の娘、遊女、人妻など多彩。女の他に登場するのが、蔦屋重三郎、式亭馬琴、山東京伝、写楽など、藤沢独自の想像力を駆使して人間関係を描いている。最終章では年を取り絵筆が粗くなっていき、女の秘所を見る所で終わる。

どの章も同じような内容で、女が登場し、その女の絵を描き、女が消える。読者を感動させるような構成はなく、単に、歌麿がどういう生活を送っていたかを描いた淡々とした見せ場のない話ばかり。全編通じて歌麿の視点で書いている。

 

2021年9月29日水曜日

Cellists Kazuo Ishiguro

   This is a very interesting, but irritating short story. 

   A young cellist, Tibor, happened to be praised for his "potential" by a woman who "claims" that she is a gifted maestro. Tibor often goes to her to have cello practice. Strangely, she never demostrates her cello technique, but just verbally instructs him. When he returned from a holiday trip, he finds that her would-be-husband, Peter, was with her. She was going to America with Peter. Tibor departs for a cello job in a hotel in Amsterdam.

Seven years later the narrator finds Tibor had become an ordinary man with bitteness. 

I got angry with Eloise because while he was away from Peter and felt lonely she played with Tibor until she meets Peter. Immediately after she met Peter she said good-bye to Tibor. She might have enjoyed playing around with Tibor. I felt sorry for him. His talent "was ruined," by her.

Ishiguro is skillful because he lures the readers and lets them expect that Tibor and Eloise will have some romantic fruit, till they find no romance but a kind of destruction on the part of Tibor in the end.

2021年9月25日土曜日

宮本武蔵 直木三十五

 直木賞と言う賞の本家本元の直木三十五の小説だが、落胆した。

初め父無二斎と二刀流について議論する場面がある。なかなかの議論の展開であったが、議論が物別れになったとき、無二斎が、立ち去っていく弁之助の背に短刀を投げつける場面がある。これは不自然。それを躱す弁之助もなぜ交わすことができたかが理解できない。次に著者は(勇を頼みすぎる。この上は、少し文事を学ばさぬといかん)と無二斎に言わせているが、なぜ文事を学べば、勇を抑えることができるかの立証してない。また、ここで章が変わるが、次の章では文事の話でなく、道場破りの話になる。

道場破りの話も、読者をハラハラさせるために技とらしく、僧が有馬に「何分、不具になどならぬように、お手柔らかに」と頼ませるが、結末が見え見えである。

後半は武蔵にまつわるエピソードの羅列で、小説になっていない。三十五は途中から武蔵の小説を書くことを放棄したのか。

2021年9月8日水曜日

糸子の体重計  いとうみく

 作者のいとうみくはJOMO童話賞優秀賞受賞者。本作の主人公は小学校5年生の細川糸子。糸子はクラスで一番大きくて体重のある高峰理子とダイエットを始める。

話は糸子と理子のクラスメート町田良子、坂巻まみ、滝沢径介。章立てが、五人それぞれの章になっており、各章を読んでいくと、誰もが悩み、つまづき、友人関係を気にしていることが描いてある。これはまるで大人の人間関係と同じだと思った。児童文学だから、もっときれいな問題のない冒険物、友愛物、何かを成し遂げる話かと思ったら、大間違いだった。お互いに牽制し合い、お互いを認め合う、人間の物語が描いてある。モチーフとしてはクラス対抗マラソン大会、文化祭の出し物で段ボールで迷路を作る作業、雪で鎌倉を作ること、先生と生徒の関係などが描かれている。

この本を読むのはおそらく小学生高学年だと思うが、多くの読者は自分のことが書いてあるとおもうだろう。

結局、児童文学にせよ、大人向けの文学にせよ、詰まるとことは、人間の描写、人間の葛藤だと思った。

命名の仕方が面白い、太っている女子を「細川糸子」、何事もそつなくやっていく「町田良子」、それから良子にいつもつるんで機嫌を取る「坂巻まみ」。背の高い「高峯理子」、世間の逆風に立ち向かっている「滝島径介」。

新美南吉童話賞応募のために読んだが、参考になった。

2021年8月16日月曜日

Old Babes in the Wood Margaret Atwood

 The writer seems to be an old woman. She describes the psychology of two old women living alone near the beach. They are trying to resist to becoming old and to forgetting things. They remember what their father had done to them; they know they are old and inclined to depend on their older brother.

I myself am a 78-year-old man and therefore, I can understand what they are doing. The writer seems to be describing what I am thinking about. 

Well developed with nice conversations.


2021年8月14日土曜日

星落ちて、なお  澤田瞳子

 父、川鍋暁斎のことを怨んでいたが、結局は父を追憶することになる。とよ、こと暁翠の心情の変化を描いた。

父や兄(暁雲)とのつながりは絵を通してだけであった。兄は父の如くになろうとやせ我慢をして死に、とよも父を模範とするが無理。あまりにも偉大。

あれこれ、あれこれ事件を入れ込んで(弟子、娘、同業、出版社) 盛りだくさん書き込んで、最後はうまく収斂した。

始めはつまらなかった。途中から、兄が死に、自分の立場を意識するころから感情移入してきたか。

2021年8月10日火曜日

闇の歯車 藤沢周平

 エンタメとして最高傑作。

百両の金ほしさに徒党を組んだ五人組、うまく近江屋から六百五十両を盗むが、女中に顔を見られたことがきっかけで徒党の主、伊兵衛はお縄になり、他の三人も死んでしまう。残された主人公が裏長屋に帰ると、別れた古女房がいる。「百両などと言う金は、あれは悪夢だった」「まともに働き、小さな金をもらって暮らすんだ」

展開が分かりやすい。情景が浮かぶ。人情もの。心の内を詳しく描写している。台詞も無駄がなく、いい。

大した作家だ。