2010年11月28日日曜日
連城三紀彦 「恋文」
連城の文は、吉行淳之介の文のように凝っていなくて、平易で分かりやすい。
話の作り方が巧い。離婚届がラブレターという展開や、優の手紙文など変化があり、読者は引き込まれていく。
しかし、内容的に腑に落ちない。なぜ将一は離婚を決意したのか。決意に至るまでの将一の態度の描写が不十分で、読者を納得させるまでに至っていない。郷子に対してどんな不満があったのか。むしろ最高の妻として将一は郷子を見ている(離婚届がラブレターという献身、江津子を何度も見舞いにいっている)。姉さん女房にしても、その方が将一には合うとも言っている。優との関係も問題はない。なのに、なぜ離婚を決意したのか。筆が先走って展開が現実味を帯びずに、著者の自己満足的な展開になっている。
さらに、将一も江津子に騙されていたことを、指輪を返してもらって分かったのなら、すなわち、形だけの結婚だったと言うことが分かったのなら、何も離婚したままでいる理由がない。
わがままな坊やを描いたのか
読後感は極めて悪い。論理的に考えて非現実的な馬鹿げた話。ワーっと思い切り叫びたくなるような欲求不満が残る。この作家は現実味、論理性に欠ける。
むしろ、結婚劇を境にして、将一と郷子の地位が逆転していた、というような展開の方が読者は納得する。
探偵小説専門誌『幻影城』でデビュー。大胆な仕掛けや叙情性溢れる文体を用いたトリッキーな作風で評価を得るが、直木賞を受賞した『恋文』以降は大衆小説、こと心理主義的な恋愛小説に主軸を移した。しかしその後も謀略サスペンスや誘拐ものなど、多彩なミステリの執筆も行っている。
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