2021年11月18日木曜日

芋粥 今昔物語

 五位という男が「芋粥」を腹いっぱい食べたいと願っていたが、利仁によって、敦賀まで連れて来られて、そこで山のように積まれた芋を見てうんざりし、食べたい気がなくなるが、無理して食べる。

利仁は五位をあざけるために敦賀に連れていったのか、芋粥をご馳走しようとして連れていたのか。???

芥川龍之介の「芋粥」読んだが、中身は今昔と同じ、「鼻」のように最後のひねりもない。ただ、中身を薄く引き伸ばした感じで、創作の跡が見られない。結末は今昔のほうがいい。


北斎と幽霊 国枝四郎

 ネタバレ

北斎の師匠・狩野融川は、描いた絵を、豊後守に「砂子が淡い。描き直せ」と言われ、「描き直すつもりはない」と突っぱね、絵に命を懸けた。北斎は、豊後守を怨んで自刃した師匠の仇を絵筆一本で討つ。北斎の「駕籠幽霊」を見た豊後は卒倒する。

原稿用紙40枚ぐらいの作品。フィクションとはいえ、面白い展開が読者を引き付ける。

「駕籠幽霊」は国枝の虚構だが、ネットを検索しているうちに、浪曲師・酒井雲の「駕籠幽霊」があり、それは、国枝の「北斎と幽霊」の一字一句と、ほぼ同じであった。国枝と酒井は同世代に生きていたから、恐らく酒井が国枝の幽霊話を浪曲にしたのであろう。

ちなみに、酒井雲は村田英雄の師匠


2021年11月3日水曜日

父と暮せば 井上ひさし

 ネタバレ

76ページに

美津江:(略)魚を焼くような臭いのたちこめる中を、昼ごろ、うちに着いた。

竹造: (いたわるように)きれいに焼けとったろう。

美津江:泣き泣きおとったんのお骨を拾いました。

竹造:ほうじゃったな。いやありがとありました。

を読んで、美津江の父親・竹造が死人なのかと不思議に思ったが、あとがきに井上が書いているように、竹造は死人で、美津江の反対の立場をとる美津江を父親として登場させたと書いてあり、納得した。

テーマは、友人、知人、親族が多数原爆で死んだというのに、自分は生きていていいのかとう疑問を読者に投げかけている。このような自責の念は古今東西いくらもあるテーマだ。同じようなテーマを取り上げた新聞投書が先日「中日新聞」にあった。以下は投書内容の骨子。

1945年8月。終戦後、私の兄は神風特攻隊員でしたが帰還して参りました。出撃直前に飛行機のエンジンが故障したため飛ぶことができなかったからです。 帰還した兄は父に長い間許しを請うていました。父は村長で、村の多数の若者を戦地に送り出し、そのうちの大多数の人が帰還しませんでした。父は黙して、兄にひと言も声をかけませんでした。数日後、兄は山に入り、自害用に持っていた手榴弾で自爆しました。 父と兄の胸中には計り知れないものがあったと思います。

2021年10月7日木曜日

喜多川歌麿女絵草紙 藤沢周平

歌麿がどのように美人画を描いたかとか絵を描くときの苦労談は一切なく、もっぱら、美人画のモデルとなった女について書いている。六章あるが、各章ごとに異なる女性を登場させ、その女の美しさに加えて性質、生い立ち、家族などネガティブな面も活写している。女は茶屋の娘、遊女、人妻など多彩。女の他に登場するのが、蔦屋重三郎、式亭馬琴、山東京伝、写楽など、藤沢独自の想像力を駆使して人間関係を描いている。最終章では年を取り絵筆が粗くなっていき、女の秘所を見る所で終わる。

どの章も同じような内容で、女が登場し、その女の絵を描き、女が消える。読者を感動させるような構成はなく、単に、歌麿がどういう生活を送っていたかを描いた淡々とした見せ場のない話ばかり。全編通じて歌麿の視点で書いている。

 

2021年9月29日水曜日

Cellists Kazuo Ishiguro

   This is a very interesting, but irritating short story. 

   A young cellist, Tibor, happened to be praised for his "potential" by a woman who "claims" that she is a gifted maestro. Tibor often goes to her to have cello practice. Strangely, she never demostrates her cello technique, but just verbally instructs him. When he returned from a holiday trip, he finds that her would-be-husband, Peter, was with her. She was going to America with Peter. Tibor departs for a cello job in a hotel in Amsterdam.

Seven years later the narrator finds Tibor had become an ordinary man with bitteness. 

I got angry with Eloise because while he was away from Peter and felt lonely she played with Tibor until she meets Peter. Immediately after she met Peter she said good-bye to Tibor. She might have enjoyed playing around with Tibor. I felt sorry for him. His talent "was ruined," by her.

Ishiguro is skillful because he lures the readers and lets them expect that Tibor and Eloise will have some romantic fruit, till they find no romance but a kind of destruction on the part of Tibor in the end.

2021年9月25日土曜日

宮本武蔵 直木三十五

 直木賞と言う賞の本家本元の直木三十五の小説だが、落胆した。

初め父無二斎と二刀流について議論する場面がある。なかなかの議論の展開であったが、議論が物別れになったとき、無二斎が、立ち去っていく弁之助の背に短刀を投げつける場面がある。これは不自然。それを躱す弁之助もなぜ交わすことができたかが理解できない。次に著者は(勇を頼みすぎる。この上は、少し文事を学ばさぬといかん)と無二斎に言わせているが、なぜ文事を学べば、勇を抑えることができるかの立証してない。また、ここで章が変わるが、次の章では文事の話でなく、道場破りの話になる。

道場破りの話も、読者をハラハラさせるために技とらしく、僧が有馬に「何分、不具になどならぬように、お手柔らかに」と頼ませるが、結末が見え見えである。

後半は武蔵にまつわるエピソードの羅列で、小説になっていない。三十五は途中から武蔵の小説を書くことを放棄したのか。

2021年9月8日水曜日

糸子の体重計  いとうみく

 作者のいとうみくはJOMO童話賞優秀賞受賞者。本作の主人公は小学校5年生の細川糸子。糸子はクラスで一番大きくて体重のある高峰理子とダイエットを始める。

話は糸子と理子のクラスメート町田良子、坂巻まみ、滝沢径介。章立てが、五人それぞれの章になっており、各章を読んでいくと、誰もが悩み、つまづき、友人関係を気にしていることが描いてある。これはまるで大人の人間関係と同じだと思った。児童文学だから、もっときれいな問題のない冒険物、友愛物、何かを成し遂げる話かと思ったら、大間違いだった。お互いに牽制し合い、お互いを認め合う、人間の物語が描いてある。モチーフとしてはクラス対抗マラソン大会、文化祭の出し物で段ボールで迷路を作る作業、雪で鎌倉を作ること、先生と生徒の関係などが描かれている。

この本を読むのはおそらく小学生高学年だと思うが、多くの読者は自分のことが書いてあるとおもうだろう。

結局、児童文学にせよ、大人向けの文学にせよ、詰まるとことは、人間の描写、人間の葛藤だと思った。

命名の仕方が面白い、太っている女子を「細川糸子」、何事もそつなくやっていく「町田良子」、それから良子にいつもつるんで機嫌を取る「坂巻まみ」。背の高い「高峯理子」、世間の逆風に立ち向かっている「滝島径介」。

新美南吉童話賞応募のために読んだが、参考になった。