2021年1月6日水曜日

後巷説百物語 京極夏彦

巷説百物語(のちのこうせつひゃくものがたり)

奇想天外な話。

怪奇と言っても幽霊やお化けが出てくる話ではなく、世の中の常識や通年が全く通じないというか、むしろその逆の世界(恵比寿島)を現実味を持って描写している。人間は空想でこれぐらいのことを想像できることを文字で実証してみせている。人間の想像は無限ということ。

話の構成が読者を飽きさせないようにしてある。すなわち、章によって、対話形式であったり、独演会のように一人で一方的に話したりしている。劇中劇形式で、その話を聞く者も巧く全体の話に組み込んでいる。

とにかく、奇想天外で想像もできない世界を描いているので、どうなるか、どうなるかという思いで、次のページに進んだ。A page-turning story of an unrealistic world.

2021年1月2日土曜日

故郷 魯迅

 主人公が故郷を離れて20年ぶりに大金持ちになって故郷に帰ってくる。景色は昔のままだが、20年ぶりに会った少年時代の友人(閏土)が貧しい中年男になっていた。閏土は主人公に会うと「旦那様」と呼ぶ。主人公(魯迅か)は金持ちと貧乏の間に横たわる深い溝を認識し、昔の友と昔のように打ち解けて話せないことを寂しく、また残念に思う。そんな思いを持って、故郷を離れていく姿が巧く描かれている。閏土の子と魯迅の子はまた同じことを繰り返すのだろうか。

考えさせられる短編。人は、相手の人格ではなく社会的地位で判断し、態度を変える。


風狂の空 城野隆

 宣伝文句に「平賀源内が愛した天才絵師」とあるから絵師(小野田直武)の話かと思ったら、絵師の話ではなく、平賀源内の話と、直武の話とごちゃ混ぜになり、もっと悪いことに、吉次郎という絵師(実は司馬江漢)が出てくる。吉次郎は本作では悪役として登場するが、司馬江漢が直武との確執で女を抱かせたり、殺そうとしたりしたという話は作り話丸出しだ。また田沼意次も話に登場するが、この作家の特徴か、「一枚摺屋」でも水戸光圀をだし、けれん味を出しているが、どうも話の筋が分からない。分からない原因は誰が主人公か分からないからである。源内か直武か。混線したままで話が進んで行く。推理小説でもないし、天才絵師の内面を抉る話でもない。政界の裏話でもない。中途半端。

杉田玄白の「解体新書」の付絵を完成したところで話を終えてもいいのに、あとだらだらと引き延ばされた感じ。付絵もその苦労や描き方など詳しくは述べられていず、表面的叙述に過ぎない。

余り読む価値がない。駄作。


2020年12月18日金曜日

陰の季節 横山秀夫

警察物を初めて読んだ。松本清張賞受賞作だけあり、読者をどんどん事件に引き込んでいく。最後のクライマックスも納得のいく出来。ネタバレ(白髪の運転手が尾坂部のお抱え運転手と言うのは出来すぎではあるが)

尾坂部が何故現職を降りないのかの真相をめぐって、ニ渡があれこれ手を尽くすのだがどれも功を奏しない。

最後に尾坂部の娘のレイプ事件に行き着き、犯人を追い詰めるという仕掛けはうまくできている。

尾坂部の人間味も巧く出ている。

一気に読み終えた。

2020年12月17日木曜日

花の歳月 宮城谷昌光

姉の猗房(いぼう)が皇后となり、幼い時に生き別れた弟の公国が30年後に再会する物語。著者は史記の「外戚世家」から題材を得たと言っている。

最初の章の最後の章は小説文体で詳細に描かれていて目に見えるようである。文体も読みやすい。特に姉と弟が再開する場面はほろりとする。

その他の章は歴史的事実が羅列してあり、歴史上の人物や国がいっぱいでできて、歴史書を呼んでいるようであった。

猗房と公国が歴史の波に翻弄され、占い通りに姉は皇后になり、弟も姉と再会しいち武侯となる。

司馬遷の原文「侍御左右、皆、地に伏して泣き、皇后の悲哀を助く」とある。原文と宮城谷版を比較してみたい。

2020年12月16日水曜日

アマダースの饗宴  牧村一人

松本清張賞受賞作ということで読んだが、読む価値がない。

何故、受賞したのかわからない。大沢在昌氏が絶賛しているが、こんな安っぽい駄作を褒めるとは、大沢氏も大したことない。ハラハラドキドキ、謎解きや、エンタメ要素が皆無。人間を描いていない。だらだらと同じような場面が繰り返される。長編を書く参考にと思ったが、反面教師として役立ったか。最低の駄作。

評価としては5段階の1.時間の無駄。何度も読むのを止めようと思ったが、後半の盛り上がりとかクライマックスが何もない。お勧めできない。

今後は受賞というまじないに引っかからないようにして、4分の一読んで面白くなかったら、本を閉じるべし。

ヤクザおお対ヤクザの争い物。株の取り引きの専門的な用語がいっぱい出てきて、途中で分からなくなる。話の筋を追っていくだけで精いっぱい。いや、実際、話の筋がよくわからない。登場人物が30人ぐらいあり、紙に書き付けたが、いくつかのヤクザの組織が互いに争い、組長、若頭、子分などが、複雑にかあみあい、話が複雑で分かりにくい。加治と言う男が大物で、最後に加治が登場してくるかと思ったら、死んでしまっていた。読者は落胆するだろう。

無理に読み終えたが、筋がつかめず面白くなかった。人間関係が分からない。最後は10億円をダイヤ二個に変えて男の一物のなかに入れ込んで死ぬ話だが、なぜこうも複雑に話を展開しているのかわからない。主人公の女性笙子もわかりにくい女、結局は女の嫉妬が巻き起こした捕り物か。

ドンパチや、派手な出入りがあるハードボイルドだが面白くない。


2020年12月3日木曜日

一応の推定 広川純

 轢死した老人は事故死か、それとも重病の孫娘を助けるために自殺したのか。自殺ならば保険会社は保険金として3000万円を払わなくても良い。

「ネタバレ」定年間近の保険調査員、村越努の地道な調査により、「一応の推定」で自殺と判定されかかるが、最後の数ページでそれを覆す人形の入った箱の損傷から、老人が脳に損傷を受けていたことを突き止める。

広川純の文章がいい。必ず登場人物の人となりを2行ぐらいで説明する。場所(応接室、居酒屋、喫茶店、ラーメン屋、雑居ビル)の描写が念入りで、リアリティがある。竹内主査との会話で、読者は事件の中身を整理できる。

後半4分の一ぐらいから、結末がどうなるか気になって(太った男に会い、真相がわかる結末と思っていたら、死んでいたというところで、大いに驚かされた、このトリックは絶妙。では、どうなるかと思っていると、自転車にぶつかって子頭部を打っていたという結末に持っていく手腕は見事。

松本清張賞作品の中で特にいい作品。