2014年12月16日火曜日

新聞紙 三島由紀夫

 これはユーモア小説。敏子(おそらく敏感の敏から)が次から次へと妄想し、ついには20年後のことまで妄想する。挙句の果ては、妄想が高じて、現実が妄想と一致してしまう面白さ。 ジェームズ・サーバーの短編小説『虹をつかむ男』 The Secret Life of Walter Mitty by James Thurberの主人公うオルター・ミティーの妄想狂と似ている。三島はサーバーをヒントにしたか。

橋づくし 三島由紀夫

 よくできた話。落語のよう。願をかけた4人が、腹痛、知人、警官によって橋を7つ渡るという願がぶち壊しになるが、田舎での不細工なみな、だけうまくいく。
 近松の浄瑠璃「天の網島」の治兵衛と小春が心中道行最後の段で橋づくしのくだりをヒントに昔からある無言の願掛けを足してできた小説だと思われる。 出だしの「元はと問えば分別の、あのいたけいけな貝殻に一杯もなき蜆橋、短き物は我々が此の世の住居秋の日よ」の「分別の」の「の」は主格の「の」で、分別が蜆貝殻いっぱい分もなかったため、短い命を絶つことになる、というような意味か。
 不可解な点
  なぜ、三島は、出だしから約1ページも使い小弓を食いしん坊加減を詳述しているが、何のためか。腹痛を起こすのはかな子であるのに、わからない。
 

2014年12月3日水曜日

藪の中 芥川龍之介

アンブローズ・ビアスの「月明かりの道」と「今昔物語」の「妻と伴い丹波の国へ行く男が大江山で縛られる話」をベースにしている短編。素材を活かしてうまく短編を作っている。
「月明かりの道」では、夫が妻の不貞を疑い、妻を絞め殺す話であるが、3人の立場から物語を構成している。第一が夫の立場。第2が子供の立場。第3が妻の立場である。中でも妻の立場からの語りは、霊界師を通して妻に語らせているが、「藪の中」では巫女の口からの語りにしている。

地獄変 芥川龍之介

 絵師良秀の芸術至上主義により、娘が牛車の中で焼き殺される刹那、猿が火の中に飛び込んで、娘とともに焼け死ぬが、これは、ポーの「黒猫」からヒントを得たのではないか。「黒猫」では、プルートという猫が主人公の妻が殺され、壁に塗り込められるとき、一緒に塗り込められた。猿とか猫とかいう、いわゆる小道具を使って、話に現実味を出そうとしている。 見たものをそのまま芸術作品に仕上げるという写実主義は次の二つの作品に見られる。

(1)ジョセフ・ヴェルネの「難破船」の絵画に現れている。彼は嵐の真っ只中に、自分の身体を筏のマストにくくりつけてもらい、海にでて、その荒れ狂う海の姿を頭に焼き付けて、作品を仕上げた。

(2)岡本綺堂の「修善寺物語」で面作りの翁が、自分の娘が死んで行く時の表情を写し取っている。

「地獄変」も「宇治拾遺物語」『絵仏師良秀,家の焼くるを見てよろこぶ事』を題材にしている。ただ、かなり創作が入っていて、より読みごたえがある。

2014年11月26日水曜日

MOTHERLODE by Thomas McGuane

David, an ordinary preg-tester, is involved in a drug-related crime. He had a chance to avoid it, but his desire to get money prevented him from doing so. After he carried the stuff, he returns to Ray and Morsel but finds them dead. And [ALERT ENDING DISCLOSURE] David was shot to death when he [bent to insert the key] and [the lid rose to reveal the contents of the trunk. The story is filled with so many filthy slangs that non-native speakers of English like me find it difficult to read it. First I did not understand the last sentence: David didn’t feel a thing. The ending of this story is shocking. Another story that shocks you in the end is "An Occurrence at Owl Creek Bridge” written by Ambrose Bierce.

2014年11月20日木曜日

レテーロ・エン・ラ・カーヴォ 橋本五郎

恋文の文面は思わずドキドキするほど実感が伝わってきて、男性作家であるのに、乙女の恋心を見事に描いている。また、第6信で読者をあっと言わせるどんでん返しは見事。

ただ、第6信の最後の部分は何度読んでも理解できない。

引っかかった点。

1.なぜこの手紙を書いた「善き友人」たちはこのような回りくどい方法でS君が「有為な青年を物色している女」の犠牲になることを止めようとしたのか。なぜ彼らはS君に直接会ってそう言わないのか。じれったい。

2.S君が「安住すべき地」はM子様なのか、よくわからない。

3.タイトルについて。なぜこのようなフランス語まがいのタイトルにしたのか。「穴の中の手紙」(英語でLetters in the Cave)では品が落ちるのか。このタイトルが分かる人は少ないのに、あえてこのタイトルをつけたのは奇をてらったのか。

橋本五郎の紹介文で、江戸川乱歩が「作品の着想や組立よりも情味と文章とに優れている」と書いているが、同感。

屋根裏の散歩者 江戸川乱歩


よくできた推理小説。三郎が遠藤を殺害するに至る過程は手に取るように無理なく描かれている。伏線の張り方、殺害状況、心理描写も巧み。明智小五郎の推理、ボタンの使い方、天井から逆に三郎を観察するという手法も見事。

引っかかるところ。

. 三郎が犯行に至るまでは細かく書かれているのに、明智の謎解きは余りにもはしょっていて、丁寧ではない。

2.明智は、どのようにして犯人の通路が天井だとわかったのかが説明不足。

3.下宿人は三郎の他に何人もいるのに、なぜ明智は三郎が犯人だとわかったのか。三郎が煙草をやめたことと、毒薬が煙草入れに流れていたことの関連で、犯人が三郎だとわかるのだろうか。

4.明智が「君のいわゆる『屋根裏の散歩』によって、下宿人の様子を探ることにした」と言っているが、明智はどのようにして『屋根裏の散歩』という表現を知ったのか。三郎は明智に「屋根裏を散歩している」と言ってはいないはずだが。

5.三郎が煙草をやめたのは「毒がこぼれたことまでちゃんと見ていた」ことが心理的に三郎を煙草嫌いにさせたと書いてあるが、そんな深層心理があるのだろうか。それこそ煙に巻かれたみたい。

江戸川乱歩は私の好きな小説家だ。以前、『押絵と旅する男』を読んだが、びっくりするほど見事な短編小説で感服した。美辞麗句を並べない、凝った文ではなく、素直な分かりやすい文体で書かれている。江戸川乱歩の文体を手本にしようと思っている。