2009年10月5日月曜日

久生十蘭 「春雪」

 話の作り方がうまい。何かなぞ解き(晴、曇後晴)をするような小説。   池田は、柚子が「人生という盃からほんの上澄みを飲んだだけでつまらなくあの世に行ってしまった」と思っていたが、伊沢から柚子の真実を知らされて、「人生という盃から、柚子が滓も淀みも、みんな飲みほし、幸福な感情に包まれて死んだ」ということが分かる。   話の構成と展開の仕方がうまい。まず柚子の春の雪のような清くはかなく消える姿を読者に印象つけておいて、ページをめくるごとに実は、そうではなく、全く逆であったという展開にする。読んでいて無理なく、なるぼど、ありそうなことだと発見的再認(アリストテレス)をさせながら、逆転に持っていく筆力がある。 終わり方もよい。「柚子が生きていたらどんなにかよろこんで握るはずの手だった。」   ただ、よく考えると、話ができすぎかな、というところ。

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